正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
木星視察団事件(宇宙世紀の駄ッ作機 チベ級参照)において、連邦軍内で問題にされたことは、ヴァスコ・ダ・ガマ級がチベ級に劣っていたということだけではりませんでした。それと同時に、なぜ2隻しか護衛を付けられなかったのか、という問題が浮上したのです。
言うまでもなく軍艦も人の作り出した機械ですから、故障することがあり得ます。戦闘行動で損傷して性能が発揮できない場合もあるでしょう。もし、護衛艦が2隻しかなく、1隻にトラブルがあった場合、1隻だけで護衛任務を行わねばなりません。しかし、これは現実的ではありません。護衛対象の安全を考えるなら、敵艦の射程距離に護衛対象が入る前に率先して迎撃すべきですが、そうすると万一討ち漏らした場合、護衛対象は丸腰状態になります。
しかし、予算面を考えると、派遣する艦艇の数を単純に増やすことも現実的ではありません。
そこから連邦軍が導き出した結論は、ある程度の抑止力となる武装を備えた安価な戦闘艦という新しいジャンルの創出でした。
たとえば、木星視察団護衛のような状況では、主力艦1隻と、低価格艦2隻という構成で艦隊を編成します。この編成なら、1隻に問題が起きても、1隻を護衛対象に張り付かせたまま、最後の1隻を敵艦の迎撃に向かわせることができます。万一、敵艦の迎撃に失敗した場合、護衛対象に張り付いた艦が敵艦からの攻撃を防ぐことになります。この艦は、当然、低価格艦ということになります。低価格艦では、十分な戦闘力を持たず勝てないかも知れません。しかし、勝てなくても構わないというのが、低価格艦構想のキモでした。つまり、味方が駆けつけるまでの時間さえ稼げれば、それで十分であると考えられたのです。
このような発想は、地球連邦軍ならではのもので、ジオン公国においては、どの戦闘艦も常に敵を撃破することにより生き延びることを前提としていました。
更に、この構想に、緊急展開艦隊構想が相乗りする形になりました。緊急展開艦隊構想とは、加速力に優れた艦を何らかの問題の起きた宙域に迅速に展開し、問題への早期介入、早期対処を行う構想でした。そこでは、武装や防御力よりも、素早く目的の場所に展開できる能力が重要とされていました。要するに時間さえ稼げれば、連邦軍艦隊の主力が間に合うので、それ自身に確実に勝つための能力は要求されていなかったのです。
この点で、小さく軽い艦なら、加速力にも優れるため、この構想にうまく適合しました。
更に、宇宙植民地警備などの目的のために、安価な艦を求める声もあるため、これにも配慮しました。こちらの方は、艦が低価格と言うだけでなく、運用も低コストで行えるという要求が出されました。
その結果、小型軽量、低価格、高加速という3つの特徴を兼ね備えたサラミス級が生み出されたのです。
サラミス級は、マゼラン級と同様に船体主要部をブロック構造とし、1種類のフレームに組み込むブロックの種類を変えるだけで、容易に異なる任務向けの艦を建造できるように配慮されていました。当初は、長距離航行任務用タイプ(サラミスA)と、近距離警戒任務用タイプ(サラミスB)が建造されましたが、設計の最適化の結果、1種類で全ての任務に対応可能となった改良型(サラミスC)のみが建造されることになりました。
しかし、ブロック構造という特徴は、モビルスーツ時代に即座にサラミスにモビルスーツ運用能力を与えることを可能にしたため、無意味というわけではありませんでした。モビルスーツ運用能力を持つサラミスはサラミスMと呼ばれ、その改良型はサラミスNと呼ばれます。
さて、サラミス級は消耗を前提とした艦であるため、マゼラン級と異なり、消耗を見込んだ量産計画が立てられました。つまり、マゼラン級は、建造予算で12隻と決めたら12隻建造して終わりですが、サラミス級は月産2隻と決めたら、毎月2隻ずつ建造し続けるということを意味していました。
サラミス級へは、最初に6隻のプロトタイプを建造して利用実績を見た後、平時には月産1隻というペースの予算が付きました。しかし、これが全てではなく、緊急時には、月産10隻以上のペースまで即時ペースアップ可能な生産準備のための予算も付きました。
続きます。
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