正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
地上にやってきたジオンの兵士達は、最前線で、テントなどで暮らすことを余儀なくされていました。実戦の中、組み立て式の移動住居をいちいち組み立てている余裕はありませんでした。
しかしテントでは、隙間から虫が入り込み、雨が降れば雨水が流れ込んできて、しかも設置方法に慣れていないのでしっかり設置できず、寝ている間に倒れることもありました。
もう、こんな生活はたくさん。最前線でも安心して眠れるギャロップをはやく寄こせ、という声があちこちから挙がりました。
この声の大きさに、ジオン軍の偉い人たちは驚きました。偉い人たちから見れば、ギャロップは最前線の指揮所兼モビルスーツの移動整備所として作ったもので、一般兵士を全員収容してベッドを提供するほどの数を生産する予定はありませんでした。途中で最初の目的が忘れられていたのは明らかでした。
しかし、全身虫食いだらけで真っ赤になった兵士が偉い人たちの前で証言すると、要望は無視できなくなりました。連邦軍と戦う前に、虫に食われて戦闘力を失うわけには行きませんでした。
偉い人たちは、ともかく、ありったけのギャロップを最前線に送りつつ、増産を指示しました。
ギャロップの初期生産分を手に入れた部隊は、驚喜しました。
さっそく幸運な兵士達が、テントを畳み、ギャロップのベッドに横になりました。
ところがその夜。
月明かりに浮かぶギャロップのシルエットを狙って、連邦軍の砲兵隊が夜間砲撃を敢行したのです。
ジオン軍陣地は、慣れない夜間砲撃にパニックになりました。
ギャロップ内で寝ていた兵士も、おちおち寝ていられず、すぐに装備を調えてギャロップを出て、連邦軍の襲撃を警戒しました。
夜が明けてみると、被害はほとんど出ていないことが分かりました。連邦軍は分散して設置されたテントなどに貴重な弾薬を消費する気はなかったのです。砲弾はほとんど全てギャロップに集中していました。そして、ギャロップの胴体に大穴が開いていました。
昨夜、兵士達が喜んで寝ていたベッドは、跡形もありませんでした。
何が起きたのかは明らかでした。巨大な戦闘車両がジオン軍陣地に出現したことに驚いた連邦軍が、それを使って攻撃してくることを恐れて、先手を打って破壊したのでした。
何とかホバー移動だけは可能だったギャロップは、修理のため、そのまま後方に送られることになりました。一週間後、突貫作業で修理を終えてそのギャロップは最前線に戻ってきました。
ギャロップの車長は、当然兵士達が夜にベッドを使わせろと殺到してくると思っていました。そのため、積めるだけの予備ベッドも積み込んできました。
ところが、どの部隊からも、ベッドを貸せと言ってきません。
これはいったいどういうことかと見ていると、兵士達は、みな、ギャロップを避けるようにテントの位置を移動させていました。
車長が戸惑っていると、その方面の指揮官が自らやってきて、「このデカ物を5キロ後退させてくれ」と言ってきたではありませんか。
つまり、ギャロップを、堂々と見せびらかすように置いておけば、即連邦の砲兵隊を呼び寄せることになり、迷惑だということでした。
ギャロップを超大型の戦車と誤認した連邦軍は、このあとしばらくの間、ギャロップを執拗に付け狙いました。その結果、ギャロップの近くにいると、砲撃や空襲のとばっちりを食うという評判が広がり、誰もがギャロップから距離を取るようになりました。敵の砲弾や爆弾に比べれば、虫の方がまだマシだと兵士達は考えたのでした。
それと同時に、兵士達は、野営に慣れ始めていました。しっかりとテントを張る方法、虫を避ける方法、雨が降ってもぬかるまない場所の見分け方など、様々な知識と経験を積み重ねていました。
いつしか、彼らは、ギャロップはもう要らないから、そのかわり、虫除けスプレーや、防水性に優れた軽いテントを寄こせ、と言うようになりました。
人間は環境に適応する生き物だという事実を証明しつつ、地上のジオン軍は本物の野戦軍に成長していきました。
そこで、ギャロップにもより本質的な任務が与えられるようになりました。
続きます。
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