正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
「ねえ、話しかけたらお返事するようにして」
「うん、それぐらい簡単だよ」
という何気ないフラウ・ボゥとアムロ・レイの会話が、アムロ・レイを窮地に追い込むとは、誰も想像すらしていなかったと言えます。
ホビーロボットに簡単な音声の受け答えを行わせることは、けして難しいことではなく、標準の音声会話ユニットと若干のソフトウェアがあれば実現可能でした。
しかし、いざフラウ・ボゥ専用ホビーロボットAHMR-17の開発に着手してみると、アムロ・レイには開発不能であることが判明したのです。もちろん、それは技術的な問題ではありません。フラウ・ボゥから話しかけられたとき、どのような言葉を返せば彼女を納得させ、感心させることができるのか、その点がさっぱり分からなかったのです。もともと女の子との付き合いが少ないアムロ・レイは、そもそも女の子が普段、どのような言葉遣いで会話をしているかも分かりません。
アムロ・レイは、さっそく、サイド7で年ごろの女の子が集まる第7センター街へとリサーチに出かけました。
そこでアムロ・レイが目にしたのは驚くべき光景でした。体じゅうににペタペタと異様な色を塗りたくって、アムロ・レイには理解できない言葉で会話をする異様なティーンエイジャーが真っ昼間からだらだらと過ごしていました。これが本当に同じ人間なのだろうかと戸惑いながら、アムロ・レイはそこで話される言葉を採取しました。
そして、休憩に使った喫茶店の中年ウェイトレスと顔見知りになると、いろいろと言葉を教えてもらうことができました。アムロ・レイは、彼女たちが使う言葉が実は普通の言葉が異様に訛ったものであることに驚きました。いくつかの音を置き換えるルールを修得すると、驚くほど、彼女たちの会話が理解できるようになりました。
しかし、驚きはそれだけではありませんでした。彼女たちの会話にはほとんど内容がありませんでした。食べ物とファッションと男に関する語彙をのぞけは、気持ちいいと、気持ち悪いしか無いと言っても過言ではありませんでした。
この程度の簡単な言語なら、プログラムするのは簡単だと思ったアムロ・レイは、さっそくAHMR-17の言語中枢のプログラミングを始めました。
ところが、既存のどの言語に該当しない変則構文が多用される第7センター街言語は、標準の言語処理モジュールではうまく扱えませんでした。
何とか設定を変更して上手く処理させることはできないか、アムロ・レイは様々な試行錯誤を行いました。その結果、ふと気付くとAHMR-17の言語中枢はもはや復元できないほど混乱していました。
これはまずい、とアムロ・レイは思いました。最も望ましい解決方法は、新しい言語中枢ユニットを買ってきて交換することでしたが、そのためのお小遣いは残っていませんでした。第7センター街のリサーチのために、有り金はすべて使い果たしていたのです。
しかし、フラウ・ボゥからしばしば催促を受けると次のお小遣いまで待つことはできず、アムロ・レイは低機能の旧型言語中枢を取り付けて、とりあえずフラウ・ボゥに引き渡すことにしました。
「ハローぐらいしか言えないんだけど」とアムロ・レイは言い訳しながらAHMR-17を引き渡しました。
ところが、この単調な「ハロー」という受け答えが、なぜかフラウ・ボゥを喜ばせました。
「かわいい! この子、ハローっていうから、名前はハロね」
アムロ・レイは、もともとAHMR-17「人形」号(フィギュア17)と名付けようと思っていましたが、フラウ・ボゥが喜んでいるので、ハロという命名に同意しました。
アムロ・レイは、ハロを生涯最大の駄作機であると考えていました。どの部分を取っても、彼の意図通りにできたわけではないからです。
しかし、誰も予測していなかったことに、ハロはアムロ・レイが開発してAHMRナンバーロボットの中で最も活躍することになります。
つまり、ホワイトベースに搭載された様々な装備の中で、唯一、連邦軍ではなく、民間人アムロ・レイの手により開発された装備となったのです。
続きます。
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