2003年09月07日
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四季 春 森博嗣 講談社

Written By: 川俣 晶連絡先

 買った後、乗った電車の中でヒカ碁23巻を読み切って、20世紀少年14巻を読み切って、帰りにこれを開きました。さすがに、帰る途中で読み切れませんでしたが、夜に寝る前に読み切りました。

 まず、例によって仕組まれている言葉のトリック。これは面白いですね。見えない「僕」という人物に関するトリック。これによって、読者は容易に推測可能な事件の真相から遠ざけられます。その点で、良くできた面白い話だと思いました。

 さて、入手編で「真賀田四季というキャラクターは違うような気がする」と書いた理由は、こういうことです。

 四季というキャラクターは、たぐいまれなる記憶力、計算力、情報処理能力を持った人物ではありますが、それは問題の確実な解決を意味しないということです。このような人物を理想のヒーロー的に見る視点は、たぶん、間違いでしょう。どれほど強力な情報処理能力があろうとも、世の中には計算できないこと、現実的な時間内に計算できないこと、現実的に存在するリソースでは処理できないことなどがいくらでもあります。それらは、現実の社会の中に身近にいくらでもあって、天才であるというだけでは、解決できないものです。もちろん、天才であることは、ツールとしては強力なものであり、上手く使えば絶大な効果を上げるでしょう。しかし、それは確実な成功を約束するものではありません。むしろ、天才の能力を過信することは、失敗への大きなリスクになりかねない、と言っても良いと思います。

 そういう観点からこの小説を読むと、実は、四季とはそういう存在であると描かれているように読めます。四季は、凄いことをいろいろと行って周囲を驚かせたりしているし、同じような人との出会いを経験して、何かありげな雰囲気も出しています。しかし、彼女は自分の人生を全く成功させていないと言えます。たとえば、この小説のラストで消滅してしまう自分の中の人格ですが、この消失を予測も把握もできていないように読めます。それ以前に、このような別人格を必要としていたという時点で、四季は上手く生きていないと言っても良いと思います。

 それにも関わらず、四季というキャラクターが魅力的であるのは、誰もが欲しがって手に入らないある種の能力を持っているからでしょうね。そして、それが醸し出すある種の魅力的な雰囲気が、読む者を惹き付けるのだろうと思います。四季は読者が期待するある種のヒーロー像を具現化したという意味でヒーローです。

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