2007年06月03日
川俣晶の縁側過去形 本の虫感想編total 2014 count

鉄道忌避伝説の謎―汽車が来た町、来なかった町 青木栄一 吉川弘文館

Written By: 川俣 晶連絡先

 これは面白い!

 要するに「事実として語られて受け入れられてしまった都市伝説」の話です。

 私の主要な興味は甲武鉄道にありますが、今ならよく分かります。

 現在、新宿と八王子を結ぶ鉄道が必要とされることは自明に思え、その際には既に開けた甲州街道沿いを通すのが最善であるかのように見えます。

 しかし、それは「今の常識」であって、「当時の常識」とは違います。

 そもそも、当時の物流の基本は海と川です。

 東京西部から江戸への物流に最も便利なのは多摩川だったでしょう。

 しかし、多摩川は江戸の中心には流れていきません。

 では、何を使えば江戸の中心に向かうのかといえば、玉川上水です。ここで、玉川上水の通船問題が出てきます。

 ここで、玉川上水の代用品としての物流ルートとしての鉄道を構想すると、必然的に羽村ないしその周辺から新宿周辺へと続く経路が求められます。しかし、生産地と消費地を直結するという観点から言えば、甲州街道沿いの調布や府中を経由する必然性はあまりありません。むしろ、遠回りの無駄な経路とすら言えます。

 このように考えると、新宿を起点とする鉄道が甲州街道沿いを通らないのは必然ということになります。

 次に、終点が羽村ではなく八王子になっている点ですが、八王子は江戸防衛のための軍事拠点という側面がある政治的に重要な街です。それは、山梨方面へと続く交通の要衝であることを意味します。鉄道ビジネスの構想としては、より大きな規模の交通システムの一部になることを意図するのは正しいやり方でしょう。

 ただし、立川という場所が重要な意味を持ちます。ここから分岐して多摩川に沿って羽村方面に向かう支線は必然的に要求されます。

 つまり、単に八王子に向けて鉄道を敷けば良いという話ではなく、羽村方面への接続の便が良い経路でなければなりません。つまり、現在の中央線の路線は、明らかに甲州街道沿いの路線よりも合理的である……と見えるのです。

 ですから、合理性から考えれば最初から甲州街道沿いを通そうと思わないのが正解であると感じるわけです。

 新宿が終点であることは、その証拠の1つと言えるかもしれません。甲州街道にとって、新宿は最初の宿場町に過ぎませんが、玉川上水にとっては実質的な終点そのもの(厳密には四谷大木戸ですが)と見なせるのです。

 ……って、これじゃ書籍の感想になっていませんね。

 ちなみに、この書籍は、いつどこで都市伝説が事実であるかのように語られるようになったのかの検証が含まれ、そこから偉い歴史の先生も鉄道史はよく知らずに伝聞をそのまま書いていた……という状況が書かれています。軽視された鉄道史……というのは、なかなか興味深い話です。

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