本書は、おそらく村上隆や斉藤環などに典型的に見られる「オタクの理解者になりたい」という欲求と同質の動機で執筆された書籍だろうと思いました。だから、典型的にオタク文化の多くの側面を掴み損ね、過度の単純化が行われ、多くの問題を含んでいると思います。そのあたりは、既にいろいろのところで指摘されていると思います。
では本書が無意味かというと、そうではありません。
非常に印象深い文章を引用します。
p94 (村上隆について)
とはいえ、筆者の個人的な意見としては、村上の試みには、オタク系文化の構造を理解していないがゆえにかえってその一面を鋭く抉りだしているところがあり、
この意見は私も賛成です。そして、おそらく著者は無自覚的にこの文章を書いたと思いますが、本書そのものも全く同じ理由で、「一面を鋭く抉りだしている」と思います。だから、本書には存在意義があり、繰り返し取り上げられているのでしょう。
そして、ここが個人的に最も重要な点ですが、本書の著者が何を見て何を感じたのかが、私には手に取るように良く分かります。動物化というのは、私のいう「コンテキスト性の希薄化」と割と近い概念であるようにも思えます。
そういう意味で、何を言いたいのかが非常によく理解できました。
余談・1次情報の重要性 §
他者の説明よりも、本人が書いた書籍を読む方がずっと分かりやすい、という事例をまた1つ経験してしまいました。先にこれを読んでいれば感じないで済んだ割り切れ無さがむなしい。