「卒業というと結婚式。そこで窓を叩く男が来て、花嫁連れて逃げちゃう」
「違う違う。ヤマトを卒業するという話だ」
「ハイパーウェポン2009の最後に、小林誠副監督の言葉で西崎学校を卒業できるという話があった」
「うん」
「最初、意味が分からなかった」
「でも、今は分かるの?」
「なんとなくね。だから、おいらも、西崎学校の2部の生徒だったんだよ」
「え?」
「作る側が1部なら見る方が2部なんだろう」
「時間が違うから接点はないが、同じ学校ということだね」
「おいらも、ヤマト卒業という日が近いのかもしれない」
「まさか」
「うん。まさかと思うが事実なのだ。実は、卒業するという方法論が確立しつつあるのかもしれない」
「どうすれば卒業できるの?」
「やるだけやって後悔を残さなければいいのさ」
「具体的には?」
「うん。実は最近始めた日本アニメ特撮こてん古典というサイトがある」
「それで?」
「このサイトにはいくつかの意図がある。1つは、安価な本を紹介してもアフィリエイトの実入りが少ないので、DVDを紹介しようというものだ。でも、リアルタイムで進行しているアニメの話を書いても紹介する商品がまだ無い」
「ははは。それはそうだ」
「なので、古いものを扱うことにした」
「だから、古典なのね」
「でもさ。これには別の意図もあってそれが卒業なんだよ」
「というと?」
「これだけ幅広くアニメを見ていた人物はそれほど多くないと思うが、それが理解されているか怪しい。そこがある意味で後悔なんだな。だから、アニメに関する幅広い感想をぶちまければ、おいらはアニメを終われるんだ」
「なるほど。それが卒業だね」
「うん。今はまだ数が少ないから存在感も少ないが、1日に1つずつ書き足している。なに、難しいことはない。要するにおいらの感想を書くだけだからな。それ以上のことはちょっとWikiPediaのスタッフ情報を引用しているぐらいで、書くのに苦労はない。長い間見ていないアニメの記憶を掘り起こすのに苦労するだけだ」
「見てないアニメはどうするの?」
「書かないだけだ。別に網羅的な百科事典を作ろうという訳ではないからね」
「でも、書いている場合もあるじゃない」
「実は、見ていなくても間接的に感想が生じている場合は書くこともある。何かそれにまつわる事件があったときはね」
「それじゃ、話を戻そう。問題はヤマトの卒業だね」
「ヤマトの卒業問題は実は今、もっとホットな問題かもしれない」
「というと?」
「復活編の地球滅亡エンディングがBDにも収録されないらしいが、それはどういう意味だと思うかい?」
「西崎さんは異説のフィルムを残さないということ?」
「いや、だんだん分かってきたけど、復活編で地球が滅亡するというのは、実は伏線なんだ」
「え?」
「地球は実はブラックホールの向こう側にいて、続編でそれを助けに行ける」
「でも、続編を作りそうなテロップが最後に出たじゃないか」
「うん。そこだ。そこでおいらも誤解した」
「というと?」
「この映画は、実はヤマトは永遠に終わらないという方法論とヤマトは卒業できるという方法論が同居している」
「そうか2つの方向性が同居しているわけだね」
「うん。だから、エンディングが2つあって試写会で両方が上映されてしまう」
「それで?」
「だから、復活編の地球滅亡エンディングがBD収録されないということはさ。実は西崎さん自身ももう終わって良いのだと思い始めたのではないだろうか。あくまで推定だけど」
「どういうこと?」
「だからさ。西崎さんもヤマトを卒業しつつあるのではないだろうか」
「それはびっくりどっきり解釈だね」
「もちろん、あくまで想像に過ぎない。異説のフィルムは捨てて残さないのが西崎流だと言えば昔からそうだというのも事実だ」
「『祭りは終わりだよ、さあ解散解散』という事実を告げに来たのがヤマト復活編であり、実は西崎さん自身も自ら作った映画にそう告げられてやっと分かったのかもしれない」
「それでヤマトは無くなるの?」
「ヤマトは無くならないが、祭りは終わる。新作ももう無い。ファン活動するような対象ではなくなる。ヤマトは歴史の研究者の扱うかび臭い題材に変わる。というか既に変わりつつある。こちらのヤマトの扱いもどちらかといえば史料なのだしね」
「そんなものかね?」
「実際、秋に出る松本零士監修『宇宙戦艦ヤマト』大クロニクルという本も、どちらかといえばそういう感じだ。昔のロマンアルバムが実際のフィルムになった名シーンや設定資料の紹介が主なら、この本の目玉はその背景なんだろう。だから、実際にフィルムになっていない資料が多く載りそうだ」
「なるほど。君もDVDの箱を開けながら本編見ないでエンディングテロップばかりチェックしたりするしね」
「あるいは佐渡が飲んでいる酒瓶のラベルばかり見るとかね。実際、長い夢は復活編公開を境に終わったという感じがするよ。自分の生活も激変し始めたしね」
「オタクとか萌えとかと驚くほど縁遠くなったね」
「でも、それが正常な卒業というやつだろう」
「とはいえ、卒業というには遅すぎないか?」
「うん。本当は1990年代のうちに来ても良かったと思う。あの復活編はね」
「そうか」
「でも、諸般の事情で遅れてしまったのだから仕方がない。それに、もし間に合っていたらあの映像は作れなかったかもしれないしな。後悔の解消には届かなかったかもしれない」
「でもさ。本当ならそれでも遅いぐらいじゃない?」
「うんそうだ。結局、成熟年齢の高年齢化という時代の潮流にどっぷり浸かってしまったらしい」
「じゃあ、もっと早くアニメは卒業すべきだったの?」
「そうとも言えない。実は、自分に向けたアニメを見るという意識は早期に無くなっていて、別の層に向けたアニメを定点観測するという視点になっていた」
「なるほど」
「だから、本当ならその路線を貫いていれば良かったのだが、アニメを見る層の多数派はオタクだったということだ。しかし、話が噛み合わないことは多々あったので、そのときに気づくべきだったという反省はある」
「そうか」
「うん。アニメを見たことに反省はないが、自分の立ち位置を的確に見定めることに失敗して、結果として変なところに巻き込まれたという反省はある。もちろん、変な世界で変なことを言った人たちに罪はあるが、それをこちらが的確に識別できなかった反省はある」
「なぜ今は反省できるの? 大人になったから?」
「いいや。結局ヤマト復活編が目覚めの印を運んできてくれたからだ。本編もそうだけど、西崎さんがパンフにくだらない30代や40代なんてダメだぜ(超意訳)と書いてくれたしね」
「君もすっかり同年代に腹を立てる側にまわったねえ」
「緊張感がなさ過ぎるからな」
「でも結局最後はヤマトか」
「うん、結局ヤマトだ」
「黒猫」
「それはヤマト運輸」
「ブラコン」
「それは石田ヤマト」
オマケ §
「だからさ、こういうメモが残ってるんだけど」
- ヤマト書く なぜヤマトを語るのか・語ってどこへ行こうというのか?
「うん、それで?」
「書いたときには具体的なアイデアがあったわけではない。そういうことを書く必要があると思っただけだ」
「今は違うの?」
「だからさ。ヤマトを語る目的は卒業であり、語って行く先はヤマト後の世界なんだ」
「そうか。書いているうちにその目処が見えてきたわけだね」
「うん。もともと卒業なんて雲を掴むような話だったけど、徐々にそうでもなくなってきた」
オマケ2 §
「ちなみに、これを公開した日の前日の深夜、Amazonからヤマト復活編BDの発送通知が来た」
「へぇ」
「やはりワクワクするね。特にいろいろ無理をして買ったものだし」
「たかが数千円だろ?」
「いやいや。再生環境から整備したからもっと桁が上がってしまう」
「なるほど。しかしBD1枚でワクワクするとは、まだもうちょっとだけ卒業には間がありそうだね」
「うん、あとちょっとだけヤマトネタ行くぜ」
オマケ対3D §
「というわけでカトリ・デ・アマールの勇姿にまた会える。アマールの美しい女王、カトリ・イネにもね。で、若は爺に怒られながら玉子を割るわけだ。奇跡の復活を遂げたあの名作を見よ」
「うむ。じゃなくてそれは、いかん」
「えー、なぜ?」
「それって、ただの半熟英雄」
「ほら。ささきいさお主題歌のバックで金田伊功のアニメがばんばん動いたりするしさ。ほとんどヤマトってことで」
「んなわけあるかい」
オマケ4 7人の半熟英雄の丘 §
「しかしここで問題が1つだけある」
「なんだい?」
「同じ世代だったら、絶対に半熟英雄に注目する価値があると思うんだ。だって、ささきいさおに、金田伊功だぜ。金田伊功が巨人の星とか、侍ジャイアンツとか、秘密のアッコちゃんとか、いろいろパロった作画をしている映像にささきいさおの歌が乗るんだぜ」
「そうだね。でもあまり知られていない気がする」
「だからさ。ここで半熟英雄の価値を認めて肯定するということは、ある意味で孤立することと大差ないわけだ」
「そうか。孤立しちゃうのか」
「そうだよ。孤立しちゃうのだ。周囲に他に半熟英雄肯定者はいないしね。というか買ってない。限定パッケージ買ってソノシート付いてるとか喜ぶのは周囲ではおいらだけ」
「なるほど」
「某E社と関係があった頃ならちょっとはいたかもしれないけどね。ああ、ちなみにすぎやまこういち先生は半熟英雄肯定者の仲間だけど、知り合いでもない。本当にそれぐらいしか思いつかないな」
「す、すぎやまこういち先生?」
「確か2作目の音楽がそう。サントラCD持ってる」
「いやちょっと待て、スーファミ時代の話だろう? ドラクエとFFがライバル関係だった時代の話だろう? ENIXとスクゥエアが別会社だった時代の話だろう?」
「うん。実はドラクエのENIXの看板の1人だったすぎやまこういち先生が、なんとライバル会社で音楽を作ったのだ」
「あたまがクラクラするね」
「まあ他にクロノトリガーの堀井雄二先生とか、事例はあるけどね」
「でも、そういう方向に進むと孤立しちゃうのか」
「うん。孤立しちゃうのだ」
「それでいいの?」
「うん。これでいいのだ。あるいは、いいのこれでいい。そうよこうなると知っていたわたし」
「それはなぜ?」
「だってヤマトファンは孤立するものだ」
「なるほど。それは昔からそうかもしれないな」