Model Grapgix 9月号を見て思わず「えっ?」と驚いたこと。
ZZ特集なのに、いきなりZZ否定で始まること。間違ったダメな存在だけど再評価してやろうぜ的な尊大な態度です。まあ、もうちょっと屈折も見られますが。しかし、ZZというのは私から見れば、本放送当時のリアルタイムの印象で、ガンダムにあっては割と良い方だったと思うし、何らこちらには否定したい気持ちはありません。
- 主人公の持つまっすぐな健全性
- いちいちハマーンさまを回想する序盤の敵
- 大気圏を脱出できないアーガマを地球に下ろしてネェル・アーガマに乗り換えてしまう思い切りの良さ
- ガンダムをチームとして捉えてガンダムを特別な座から引き下ろす構造
- プルをコクピット内で背負って戦う
良いところはいくらでもありますが、やはり最後にハマーンがジュドーの健全性に未来を賭けてあえて最後の決戦を挑むところでしょうか。
主題歌の問題 §
とはいえ、ここでは主題歌「アニメじゃない」についての言及に問題を絞り込みましょう。
かの秋本康に作詞を依頼したオープニング「アニメじゃない -夢を忘れた古い地球人よ-」が醸し出す「イヤな感じの娑婆っ気」へのドン引き具合
しかし、私はあの歌が好きであるし名曲だとも思っているから、当然「ドン引き」も分かりません。誰がどう引いているかも分かりません。
ですが、だんだんと分かってきました。
つまり、これはヤマトが理解できない病理とメカニズムは同じです。
アニメじゃないという歌は? §
完全な歌詞は歌詞検索してもらうとして、要約すると以下の通りです。
- 僕は凄いものを見た
- みんな嘘だという (アニメの見過ぎ、漫画の読み過ぎという)
- でも僕は嘘はついてない (アニメじゃない。ほんとのことさ)
さて、ここで実はこの歌詞の解釈が2つに分かれます。
- 凄いものはガンダムである
- 凄いものはガンダムではない
前者の解釈を取ると、この命題は矛盾します。
- 僕はガンダムを見た
- 本当に見たのであって、アニメではない
- しかし、ガンダムはアニメである
実はこの解釈を取っている人は意外と多いようです。典型的なリアクションは以下のよような感じです。
「ガンダムはアニメなのに、アニメじゃないと言ったらおかしいだろう」
また、おそらくアニメ側のスタッフも誤解しています。実は、アニメのOPでは「すごいもの」のところで、Zガンダム(序盤の主人公メカ)が描かれます。
この問題は実はヤマトと同じだ §
この構造は実は以下のような陳腐なヤマト批判と同じ構造です。
- ヤマトは宇宙なのにものが上から下に落ちるのはおかしい
では、何がどうして同じ構造なのでしょうか?
以下のように解釈ができるからです。
- 本来作品とは、何かの主張があるが、それは直接描けるものではないので、間接的に何かの表現にそれを託すという構造を持つ
- 表現には多くの制約がつきまとい、それが本来主張したいことでは通常あり得ない (間接性)
つまり、ここではヤマトも宇宙もガンダムも全て間接的な表現手段であり、本質はそこにありません。従って、ヤマトも宇宙もガンダムも、意図を表現するのに十分な水準で描けていればよく、シミュレーション的に完全な描写を要求されている訳ではありません。だから、ヤマトの宇宙で上から下にものが落ちても、さしたる理由もなく人型兵器が宇宙で戦っても、それは重要な問題ではありません。
であるから §
だから、未来の宇宙戦艦であるヤマトが太平洋戦争時代の戦艦の形をしていることも、アニメの主題歌でアニメじゃないと歌ってしまうことも、要するに同じです。それらは表現の手段の問題であって、本質とは直接関係ないことです。
従って、ヤマトが未来なのに古めかしい世界観であることも実はテーマを表現するために選ばれるのが必然であり、ガンダムを見ている視聴者にとっての本当に凄いものがガンダムではあり得ないことも必然です。
しかし問題は §
実は、この認識のハードルを超えられない話は珍しくありません。表現というのは、何かを表現するための都合で選択され、自由に改変されるものです。しかし、実際には表現に拘束され、表現のお約束(設定等)に振り回されてしまうという事例もよく見られます。実はこのあたりの誤解は珍しいことではありません。
WikiPediaの設定 (物語)より
日本を主な舞台にしていたはずの物語がいきなりヨーロッパに移ったり、男であったはずの登場人物がいきなり女になっているということがあっては物語の整合性が取れなくなり、物語そのものが破綻してしまうことになるのである。
一見もっともらしいことを言っているようで、実はそうではありません。いきなり男が女に変わっているようなことは無いにせよ、それに近い設定の変更はなんら珍しくなく、(登場人物紹介でシュルツとドメルを並べると肌の色が違っていて困るぞ)、それで物語が破綻しているとまでは言えません。(さしたる理由もなく死者が生者のように語ることも映画にあっては一般的な表現だが、これも同じようなこと。設定の整合性が崩れていると言われるのに人気の高いキン肉マンもね)
実は本当に主張したいことさえぶれていなければ、そう簡単に物語は破綻しません。
誰が夢を忘れた古い地球人なのか §
「アニメじゃない」で糾弾されているのは「夢を忘れた古い地球人」です。
では、「夢を忘れた古い地球人」とは誰なのでしょうか?
設定資料に拘束され、それがまるで現実世界のように感じられ、しかし本物の現実世界からは「痛い奴ら」と見なされるような層なのかもしれません。
そういう「夢を忘れた古い地球人」の常識をぶち壊して先に進めるのが若者の特権ということなら、それが本来の意図なのでしょう。
だから、実は「アニメじゃない」を分からない人が「夢を忘れた古い地球人」です。で、この概念そのものがそのままヤマトにあてはまり、ヤマトが分からないのも「夢を忘れた古い地球人」です。
オマケ §
「どうでもいい余談なんだけど」
「なんだい?」
「実はモデグラの特集のそのあとを見て愕然とした」
「というと?」
「ZZへの肯定的な評価が全て間接的なのだ」
「え?」
「ヤマト復活編BDのインタビューで司会をしていた氷川さんの文章のリード文を一部引用してみよう」
ZZという作品に対して持っている印象は人それぞれだが、共通してそこに含まれるのは「あれは時代の徒花だった」というある種の諦めにも似た気分なのではないだろうか
「ちょっと待ってくれ。君はZZを良かったと思ったんだよね?」
「ああ。そうだ。Zガンダムをかっぱらうところから初めてキュベレイとZZの対決で終わって良かったと思っている。というか見終わって納得した。これといって諦めも後悔もない」
「でも、この文書はみんな諦めていると読めるよ」
「うん」
「ということは君の居場所はどこにあるんだい?」
「無いよ。どこにもない」
「それって大問題じゃないの?」
「いや。別に、この世界は最初から別だったと思っただけだ」
「別?」
「おいらはヤマトファン。だから世界が別なんだ」
「別ねえ」
「ちなみに、明るいガンダムが分からないのが多数派とも読めるんだけどさ。実は明るいイデオンというのがその前にあってさ。更に前にはダイターン3という明るいアニメもあるんだ。だからさ。暗いザンボットの後に明るいダイターンが来たり、暗いイデオンを売るために明るいイデオンというアピールをやってきたのだから、明るいガンダムは当然なんだよ。そして、そこで頭を切り換えることも当然の前提だったわけだ」
「つまりどういうことだ?」
「暗いZのあとで明るいZZが来てもなんら違和感がない。お約束通りの展開だ。しかも、その後にけっこう暗い展開が待っているのもお約束だ。ダイターンも結末は明るいとは言えないし、明るいイデオンの後に待っていたのはキッチンの首が飛んでいって最後に全員死んでしまう発動編だ。そういう部分で頭の切り替えができないともともと対応できない世界だ」
「でも、そう思った人はゼロに等しい人数ということなんでしょ?」
「だからさ。ガンダムのファンはそういう過去の経緯についてほとんど知らないからさ」
「そうか。ザンボットの第1話をリアルタイムで見たと豪語する君だ。前提がまるで違うんだね?」
「別にそれは大したことじゃないと思ってたけどね。実はコミュニケーション不可能な断絶を惹起するほどインパクトがあったかもしれない。実際、第1話しか見てないし、ダイターンも再放送で見たぐらいだ。で、個人的にはダイターン派」
「ザンボットとダイターンのどちらが好きかといえばダイターンか」
「ノンノン。ザンボットとダイターンとガンダムの3つの中でどれかといえば、ダイターンがいちばん好き。同様にZとZZと逆シャアのどれがいちばん好きかというと、ZZなのね。分かるかな? わかんねーだろうな、いえーい」
「そんな昔のネタみんな分からないよ」
「だからさ。ZZに問題があったという話も分かる訳よ。詳しいことはみんな忘れちゃったけど、あんな合体ロボットにしてガンダム的にどうよとか、ロンメルとかいかにもあれだよな、とかいろいろあるけどさ。でも、肯定的な評価の方がずっと優越している」
「でも、そう思っていると居場所がないわけね」
「うん。しかし、それはもういい。どのみち、ガンダムの賞味期限はとっくに切れているのだ。死体を強引に操って生きているように見せかけているにすぎん。そんな世界の居場所、無い方がいいだろ?」
「そこまで言うかい」
「ちなみに、氷川さんの文章本文は突出して凄く良かったぞ。さすがヤマト系の人だ。あとこのページのデザインそのものも良かった。勢いのある良い絵を並べてムードも上手く盛り上げている」
「マシュマーにミネバさま。ファもいるね」
「マシュマーの絵は小さいけどちゃんと花を持ってるし、ハマーンさまは尊大に煽りだし、ジュドーはまっすぐだし。それからファは出番が多いわけではないが、実は重要なんだ。気持ちをジュドーに託してアーガマを降りるような感じだからね」
「なるほど」
「かといって、ガンダムチームの絵が無かったり登場人物がかなり思い切りよく切ってあるのは良いことかもしれない。ルー・ルカとか色気があるから入れたくなるかもしれないが、あえて1枚も入ってない。マシュマーはいても、ルー・ルカはいない。これも良い判断かもしれない」
「って信じていいの? その話?」
「信じるなよ。本放送以来見てないからうろ覚えで書き飛ばしてるだけだ」
「なぜそれ以来見てないの?」
「現在進行形が基本だからだ。これはZZに限らずどの作品でも同じだ。よほどのことがないと、過去の作品は見ない。ZZだからといって特別な事情はない」
オマケ2 §
「で、君はどっちなんだい? 凄いものはガンダムだと思った方かい?」
「おいらか? おいらはガンダムを凄いものだと思ったことはないぞ」
「本放送当時は喜んで見ていたんだろう?」
「その通りさ。これでロボットさえ出なければ。せめて白いピエロのようなロボットさえ出なければ、と思いながらね」
「おっと、それは手厳しいね」
「そうかい? 当時はそういう感想が当たり前だと思っていたぞ」
「つまり、君は凄いものをガンダムと解釈していない側だね?」
「うんそうだ。最初からそうだ」
「そういえば、君はガンダムのことを、ヤマトの不在を埋め合わせる粗悪な代用品と呼んでいたね」
「そうさ。ヤマトは凄かったけど、白いピエロのようなロボットまで凄いとは思わん」
「じゃあ、いったいガンダムの何が良かったの?」
「たとえばさ。シャアがザクの補給を頼むんだけど、補給が届かないうちに素早く再攻撃するようなところだよね。そういう決断の問題」
「出た。アニメンタリー決断世代だ」
「突然思い出したんだが、決断の作画スタッフに湖川さんもいたんだよな。やはり世界は繋がっているのかもしれない」
「そうか。あれだけ決断っぽい大和の最期まで描かれちゃ、湖川さんもヤマトやりてーなと思うのも必然か」
「そして、さらばで総作画監督に就任できて、しかも復活編でも大活躍」
「確かにそうかも」
「そうさ。まあ男の人生は8割が決断だしな」
「じゃあさ。「アニメじゃない」の凄いものがガンダムではありえないとしたらいったい何だろう?」
「歌詞の「僕」は実際に見たんだ。もちろん誤認かもしれないが、家の中のモニタではなく、外に見たんだ。それは絶対にCGではなく現実なんだよ。誤認でも現実のうちなんだ」
「それで?」
「現実とは常にフィクションを超えていくものだから、そこからは実際に見た「僕」にしか語れない領域に踏み込む」
「あれ? ってことは?」
「だから、凄いものが何かは分からないんだ。そういう歌詞なんだ」
「なるほど、奥が深いね」
「この歌詞のポイントは、ひたすら、僕は見た、嘘じゃないということしか言っていないことだ。何を見たのかは良く分からない」
「うん」
「たぶん、「僕」が見たと思ったのはほとんど誤認だろう。つまり、周囲の人間の判断の方が正しい」
「そうか。誤認か」
「でもさ。「僕」には何かが見えたんだ。それは嘘じゃない」
「そこは真実なのか」
「あるいは彼になし得る最大限の誠実さだ」
「それは昨日の話にあるアイボール主義?」
「そうかもしれないね」
「そうか。ここで話がつながった」
「だから、モニターをひたすら見てそこから得た情報で語ろうという態度は絶対に彼とは相容れない」
「あれ、もしかしてモニターをひたすら見てそこから得た情報で語ろうとするのって、今時のネットやオタクの多数派?」
「今時の、ではないだろうな。たぶん昔からそうだ」
「じゃあさ。彼らと「アニメじゃない」の相性は最悪じゃない」
「そうだね。最悪だ」
「結局ガンダムのファンは、秋元康が期待したほど賢くはなかった、ということなのかな?」
「そうかもしれない。だから、本当にアニメのマニア向けの仕事はほとんど見られない。いい作詞をしたのに、受け止められなかったからがっかりしたんだろう。だから、低年齢層向けの『OH!MYコンブ』や、女児向けの『あずきちゃん』『りりかSOS』はやっても、高年齢男性層向けにはあまり熱心ではないのだろう」
「なるほどね」
「ちなみに、『OH!MYコンブ』と『りりかSOS』は見てたぞ。割と好きだ。おー・まい・こーんぶ!」
「普通に手に入らない食材ではなく、そのへんにある普通の材料で勝負するのが良かったよね」
「本当に美味いかは分からないけどね」
「うん。でも子供でも試せた」
「ところで、調べていて気づいたのだが、実はこんな情報がある」
- THE ALFEE 言葉にしたくない天気(秋元の作詞家デビュー作
「えっ? ヤマト復活編の主題歌のALFEE?」
「だからさ。間接的にヤマトとは良好な縁があるんだよ」
「そうか、ガンダムとは良好な縁がないけどヤマトとは間接的とはいえ……」
「念のためにいうと、おいらはついでにとんちかんが好きで、主題歌のうしろ髪ひかれ隊もけっこう好き」
「「ほらね、春が来た」とか「メビウスの恋人」とか」
「うん。特にACE COMBAT 04を「メビウスの恋人」で飛ぶと最高だぞ。Mobius 1, Engage!」
「いやそれはもういいから」
「うしろゆびさされ組も、CD買うほどではなかったけど、奇面組のOPやEDはけっこう好きだったね。奇面組5人のバックバンドで結ちゃん千絵ちゃんが歌う映像も良かったしね。Love me うしろ指!」
「奇面組って」
「そうそう。奇面組って好きなんだよ。アニメ化する前からさ」
「なんかどんどん話がつながっていくね」
「で、女立喰師列伝を見に行くと夕やけニャンニャンのパロディをやっているのだけど、もうきりがないので止めておこう」
「で、まとめは?」
「だから、もしも世界に線を1本引くなら秋元康さんもヤマトもALFEEも奇面組もうしろゆびさされ組もうしろ髪ひかれ隊も女立喰師列伝も全部こっちの世界だけど、ガンダムファンはあっちの世界なんだろうな。たぶん」
「多数派はこっち?」
「もろちんだ。もとい、もちろんだ。設定資料という重力に魂を引かれた連中の世界が広がるわけがない」