「そうか! やっと分かったぞ」
「何がだい?」
「じょーかだ」
「さいくろーん、じょーかー?」
「いやいや。デスラーの話だ」
「なに?」
「宮崎アニメでは、浄化と呼ばれる現象がよく起こる」
「なんだいそれは」
「強敵が味方になる現象だ。たとえば、モンスリーは当初強敵の怖い女で、綺麗な服を着て自転車に乗っても似合わないわけだが、最後は犬を探して最強人気美少女に変わる。じゃなくて、敵だけど敗北した後で味方になる。カリ城でも敵だったはずの銭形が味方にまわるし、ラピュタでも序盤の敵であるドーラ一家が途中から味方になる。このパターンは昔だけでなく、最近でもそうだ。ハウルでは荒れ地の魔女が最後に説得に応じてハウルの心臓を渡してくれるし、ポニョではポニョを拘束する悪者側にいたフジモトが、グランマンマーレ登場後にむしろポニョの願いを叶える側にまわる」
「なるほど。典型的に見られるね」
「まあ、こういう現象が、映画を演出する上で割と典型的に見られるパターンであると言えばそうなのかもしれない」
「うん」
「でもさ。ここにデスラーを理解するポイントがあったんだよ。いつの間にか味方になってるデスラーのさ」
「えっ?」
「デスラーの本質というのは、カリスマなんだ。しかし、理解されざるカリスマだ。副総統ですら理解していない。なぜ理解できないか分かるかい?」
「難しい性格だからかい?」
「性格も確かに難しいが、基本的にデスラーというのは典型的な『賢いつもりの僕』なんだ。しかも成功してしまった『賢いつもりの僕』なんだ」
「ええっ?」
「だって、ダジャレを言って笑っただけで穴に落とすなんていうのは、普通の大人ならやらないことだぜ」
「残忍な性格って描写じゃないの?」
「残忍と児戯性は表裏一体だからさ」
「ああ、そうかもしれないね」
「だから。デスラーは失恋とヤマトへの敗北を経て、やっと大人への階段を上ってるんだよ」
「ええっ?」
「デスラーの性格は好戦的だから、その性格は直らない。しかし、その結果として、もっと明確な目的意識を持った戦いをするようになる」
「ガルマン民族解放とか、ヤマトを助けるとかだね」
「そうだ。無意味にボラーに戦争をふっかけるようなことはもうやらない」
「うん」
「実はさ。そういう意味では古代も同じと言えるかもしれない」
「ええっ?」
「古代もやはり敗者なんだよ」
「放射能除去装置を持って帰ったのに?」
「古代にとって重要なことはそれより兄なんだ。しかし、兄はスターシャとかいう異星の女に取られてしまうし、大好きな兄さんは地球に帰ってこない」
「でも最後は帰ったじゃない」
「スターシャが死んだ後、子連れでね。死者の意志はもう変えられないという意味で、死者は最強だ。もう古代はスターシャに勝てない」
「そういう意味では敗者か」
「しかもせっかく艦長に就任したのに辞表書く羽目になるし。飯炊きから第1艦橋に上がってこいと言って育成した土門には死なれてしまうし、いいことは無い」
「そう思うと古代も苦労してるね」
「その挫折の数々で古代も子供から大人になったのだと思うよ」
「デスラーも古代もか」
「そういう意味で、2人は同格なんだ。一見、デスラーの方が偉くて年上に見えるけどね」
オマケ §
「うん。だから第1シリーズ至上主義が出てくるわけだ」
「というと?」
「第1シリーズだけ見ると、そういう苦悩とはあまり縁がないからだ」
「でも、デスラーの敗北も守の残留も第1シリーズじゃないか」
「ガミラスが滅んで話は終わっていて、後は単なる終わるためのルーチンワークと見なせば意味は無い」
「『賢いつもりの僕』にはその後の物語は無いのと同じってことだね」
「うん。ただのどうでいい付け足しにしか見えない」
「そうなの?」
「でも、実際は『ガミラスは負けても、僕は負けてないもん』と言い張る『賢いつもりの僕』であるデスラーの児戯的な襲撃でデスラーが敗北して初めて話は終わるのだ」
「その過程で雪を失うという古代の敗北も含めて、だね」
「話は雪が生き返ったことで初めて終わる。その先の物語は基本的に要らないからだ。重要なことは古代が雪を失って敗北することであって、雪の復活は『わかればよし』という大人のジャッジに過ぎないからだ」
「大人か」
「うん。だからヤマトは大人が見ないと分からない」
「じゃあ、この先の物語は要らないってことは、さらばは要らない作品だったのかな」
「いやそうじゃない。さらばっていうのは、ひたすら古代が負けていく話なんだよ」
「えっ?」
「ちっぽけな護衛艦でアンドロメダとすれ違ってサイズと気分で負けてしまうところから始めて防衛会議でやり込められて持論は通らず、ヤマトで反乱という最後の極論に出るが、それすら藤堂の手の中だった。そして最後は特攻しておしまい」
「でも、デスラーには勝ったよね」
「その代償は雪の喪失だ。これを勝利と呼べるかは分からない」
「確かに。おまえの恋人か、許せ古代と言われてもねえ。損害がでかすぎ」
「結局、来るか来ないかやきもきさせた島も来て古代は舞い上がったのだろう。加藤達も来たし。でも、最終的に戦いは甘くないと知ってしまった。だから、古代は決着を付ける必要があったものの、島相原以下総員18名を退艦させた。戦いの中で大切なものを失う経験を経て、どれほど好意的に他人が合流してくれてもそれに甘えてはいけないと学んだのだろう」
「そりゃもう。後部銃座に乗っていた加藤さえ死んでいたんだから、学ぶだろうね」
「そんな戦いは不本意だったのだろうが、始まってしまった以上は終わらせなければならない」
「自分の命を捨てても?」
「ああ。だからひたすら古代は負け続け、最後は自分の命で精算してたってことだ。さらばっていうのはそういう映画なんだ」
「ゴーランドは? ザバイバルは?」
「指揮した土方の勝利であり、斉藤の勝利だ。古代の勝利とは言えない」
「そうか」
「そもそも、都市帝国では真田に行けと言われて現場から外されてしまうぐらいだし」
「あわてず急いで正確に爆薬をセットする見せ場もない」
「かといって、死ぬ気の真田と斉藤を止めるわけでもない」
「ひたすら真田のいいなりなんだよ。ここでの古代は」
「古代の主体性が無い……」
「攻撃そのものが土方の作戦だしな」
「古代がやったことと言えば、土方前艦長の命令を決行する!と叫んで突っ込んだことぐらいか」
「結局、古代の唯一の善行は島相原以下総員18名を退艦させたことだが、島相原以下総員18名しか残らない状況まで戦ってしまったことも古代としては判断ミスであり、後悔だろう」
「それも一種の敗北か」
「そうそう。新たなる旅立ちも敗北の話だ」
「えっ?」
「ヤマトの行為もデスラーの行為も、結局スターシャに否定されて自爆されてしまう」
「ええっ?」
「騎兵隊気取りで乗り込んで黒色星団の艦隊と戦って勝利したように見えるが、実際は最終的にスターシャのダメだし食らって、守りにいったはずのスターシャもイスカンダルも無くなって終わり。ヤマトの大敗北だ」
「でもさ。デスラーとの友情は残ったじゃない」
「他人には分からない敗者の共感だ」
「た、確かに……」
「それを言えば、永遠にもアルフォンに手加減してもらって勝ったようなものだし、サーシャ失って大損失。完結編も結局最後にヤマトが沈んだことには変わりがない。ヤマトがなかったら、もう反乱して乗り逃げする戦艦も残らない」
「じゃあ復活編は?」
「最後に波動砲が壊れて大損失に見えるが、実は悪くない」
「なぜ?」
「守るべきはヤマトではない、地球だ!」
「そうか。地球が助かるのならヤマト1隻ぐらい安いものだね」
「本当の意味で古代が勝利したのは、もしかしたらこれが最初かもしれない」
「それは誇れるのかな?」
「でも、その前の戦いではかなり味方を失ってるので、そこは十分に胸が晴れる勝利かは怪しいけどね」
「そうか、もっと古代の決断が早ければゴルイ将軍も死なないで済んだかもしれないしね」
「いや、そこは怪しいけどな。いかにも独立歩調で勝手に突っ込んで死にそうだ」