「前にも書いたかもしれないけどさ」
「うん」
「ヤマトというのは、本質的に自己を過大評価したガキが大人にそれを思い知らされる話なんだよ」
「そうかもしれないけど、今更どうしたの?」
「いや、考えてみると綺麗に表現されているなと」
「たとえば?」
「新たなる旅立ち。主要な新乗組員は徳川太助、坂本、北野なんだけどさ」
「うん」
「この3人は全員が失敗してるんだ」
「え?」
「徳川はヤマトに見とれてランチを転覆させて、坂本はパンツ1枚で艦内一周の懲罰を受けて、北野は操縦桿を引けないで衝突しそうになる」
「なるほど」
「しかし、それを乗り越えて頼れる味方になってくれるわけだ」
「北野なんか、南部が焦るほど落ち着いて敵を引きつけて撃てるものね」
「北野もヤマトに来るぐらいだから、凄く優秀な若者だったはずだ。しかし、やはり操縦桿が引けない。でも、一度引いてしまうと一皮むけるのだろう。大人の階段を上がったと言っても良いのだろうね」
「君はもうシンデレラか」
「復活編でもさ。結局天馬兄弟が徳川太助にスパナの使い方がなってないと怒られてしまう」
「波動エンジンを触ろうとした古代に触るなと怒ったくせにね」
「おそらく、そういう要素は、結局、今時のコアなオタク層とはからきし相性が悪いのだろう」
「今時のコアなオタク層は、一皮むける前の世代ってこと?」
「だからさ。職人肌のおやじさんが出てきて、バカをやってるんじゃないとポカリと殴ってくれるような世界観とは相性が悪いわけだ」
「そういうものかね」
「たとえば、パトレイバー2という映画がある。これは割と人気があった。そして、職人肌のおやじさんも出てくる」
「うん。それで?」
「でもさ。見ている客が感情移入するのは特車2課第2小隊であって基本的にパイロットなんだ。でも、おやじさんは整備のチーフであり、怒鳴られる整備員は感情移入の対象ではない」
「なるほど、微妙にずれているね」
「そうそう。思い出したから付け加えるけどさ」
「なに?」
「天空の城ラピュタっていう映画も、公開当時、からきし評判が悪かった」
「ええ!?」
「今から思えばそれは当然なんだよ」
「なぜ?」
「パズーという主人公は、実はかなり非力な存在で、シータ連れて逃げていておやじさんを頼ってしまう。更にタイガーモス号に乗った後もドーラの亭主のおっさんの下で地味な仕事をさせられる。しかし、そういう世界観はオタク層とは最初から相性が悪かったのだ」
「でも、今は人気が高いみたいじゃない」
「それはムスカ人気が高いからで、パズー人気というわけではない。いや正確に言えば、女性層からのパズーの人気は割と高いが、男性オタク層からの人気はやはりムスカだ」
「難しいね。かなりねじれているのかも」
「そして、ヤマトも同じということだ」
「じゃあ、ヤマトは不人気なのにガ○ダムは人気があるというのは……」
「ヤマトが、おやじさんに若者が負ける作品だとするなら、ガ○ダムはおやじさん型のキャラがみんな敵方に出てくる関係上、若者がおやじさんに勝つ作品になってしまう」
「そうか。ランバ・ラルも黒い三連星もみんな敵だからね」
「たまに味方に大人が出てきても、ウッディーのように若者の制止を聞かないで死んでしまうキャラだ」
「あるいは、わがままを言うダメな大人ばかりだね」
「理不尽な暴力で若者を殴ったりするダメな大人だね」
「そうか。まさに若者バンザイ的な内容だね」
「一応、ホワイトベースにはタムラコック長もいるんだけどね。あまり存在感がない」
「劇場版だとさ。最後の決戦を前にこの戦いがいいのか悪いのか議論しちゃったりするけどさ」
「結局、気にしてるのはカイとか少数派で、残りはともかく暴力装置を行使して力を解放する魅力に酔ったままだったのかもしれない」
「うーむ」
「そして最後、ホワイトベースの若者達は物語の幕すら引けない」
「え?」
「デギンはギレンが殺して、ギレンはキシリアが殺して、キシリアはシャアが殺して幕。アムロの出番がない」
「だから、地球を前にデスラーと古代が対面しちゃうヤマトとは異質ということなんだね」
「うん。まったく異質」
「そうか。だから、古代はいつまでも主役であり続けることができるけど、アムロは続編で主役から退場してしまうわけか」
「うん。物語に幕を引けなかった脆弱なキャラだからね」
「カミーユはまだマシかな」
「最大の敵を倒したけど、敵はまだ残ってるのに精神が行ってしまったからね。やはり幕を引けなかったキャラだろうね」
「ならジュドーは?」
「ジュドーになって始めて物語に幕が引けたのだと思うよ」
「ということは、もしかして新訳Zっていうのは」
「テレビで引けなかった幕をやっと引けた作品と見るべきなのかもね」
「しかし、ガ○ダム語りが長いよ」
「すまん。話を戻そう。ジオン空手の継承者の話だっけ?」
「ちがーう! ヤマト!」
「だからさ。ヤマトっていうのは、年長の男性からどやされるために若者が乗る船ねんだよ。その機能性を持っているのはヤマトなんだ。けしてホワイトベースではない」
「わざわざどやされるために乗るなんて、変だね」
「変じゃないさ。頼られる強い男になりたいなら、年長者から学ばなくてはならない。ヤマトに乗るということは、魅力のあることなんだ。どやされてプライドがずたずたにされるよりも、もっと大きな魅力のあることなんだ」
「ガ○ダムのコクピットという個室にこもるよりも、それはいいことなんだね?」
「そうさ。もっとでかい男になれるからな。いやまあ、男じゃなくて女でもいいけど」
「雪も出発前は看護婦なのに、帰った後は藤堂の秘書ができたしね」
「うむ」
「それで君はヤマトに乗りたい?」
「うん。トイレ掃除でも乗りたい。ヤマトがでかいことを成し遂げる現場にいて当事者になりたい」
「でも、戦闘中にうわーっと吹っ飛ばされて斎藤にかつがれて佐渡先生のところに行くだけかもよ」
「佐渡先生、忙しくてそのへんにおいとかれたりしてな」
「しかも斎藤は横でヤマトカクテル作り始める」
「オレも飲みてえ」
「とか思ってると医務室も吹っ飛ばされて終わり」
「哀れヤマトカクテルは床に落ちてがしゃーん」
「それ以前に自分の命を心配しろ!」
「ちなみに、ヤマトカクテルは実際に出す店があるらしいぞ。行ったことはないがな」
「へぇ。物好きというかなんというか」