「相変わらず本屋にヤマトの存在感が薄いなあ。と思って本屋を眺めていたときのことだ」
「うん」
「もう新宇宙戦艦ヤマトも平積みになってないコミックのコーナーを見てヤマト見当たらない文庫のコーナー見てヤマト特集のキネ旬があった映画雑誌コーナーとか昔ヤマトのムックが多かった(その本屋はまだ無かったが)アニメ雑誌コーナーとか見て、さて公開2日前だというのに本屋はヤマトの存在感が極めて希薄と思って帰ろうと思ったとき、思いもしない場所にヤマトがいた!」
「どこに?」
「パソコン雑誌コーナー」
「そういえば昔月刊ASCIIの表紙にヤマトってことがあったね」
「ヤマトゲームだっけ? さらばのとき。でも、それとは趣旨が違う」
「どういうこと?」
「CG WORDLDというプロ向きのCG雑誌の表紙がヤマト。ヤマト特集もあり」
「そんな雑誌でヤマト!?」
「ただし、ヤマトのVFXの詳しい説明の特集だ。要するにどうやってあの映像を作ったのかという話だ」
「へぇ。今までとはまるで趣向が違う特集だね」
「たとえばキネ旬のヤマト特集は旧ヤマトありきなんだ」
「うん」
「でも、これは映像技術の新しい挑戦なんだ」
「なるほど」
「それゆえに、主役はヤマトじゃない。白組調布スタジオなんだ」
「ええっ? 白組って調布にスタジオあったんだ」
「つまり、木村拓哉の顔が出てこないヤマト特集なのだよ」
「これ凄いね。ワイヤーフレームとかマスクの画像とか」
「すげえだろ。まさに映画の裏側を見る感じだ」
「Maya使ってるけど。ここは3ds MAXとか書いてあるね」
「総力戦らしい」
「君は、LightWaveとPoserだけど、どうして使ってるソフトが違うのかな?」
「値段だよ。Mayaとか遊びで使える上限を超えちゃう。まあLightWaveですら超えているのだろうが、もっと超えちゃう。今は詳しく知らないが、まだしも出せる金額でプロ用に耐えるのがLightWaveしかなかったのでおいらはユーザーだが、他のソフトもかなり調べたぞ。それらで悪い理由は何も無かった。というか、金に糸目を付けないなら本当は3D studio MAXとかSoftimageが欲しかったところだ。当時としてはね」
「なるほど」
「ちなみに、おいらも昔はCG雑誌に書いていたこともあるんだぜ。某ペイントソフトの宣伝記事で、ただの球体にテクスチャとかバンプを貼り付けるとこんなかっこいい宇宙船になるぜ、とかいうのを書いたこともある。そのときは、人気が高いShadeでやってくれと言われたのにどうしてもマッピングが上手く合わなくてぶち切れてLightWaveでやってしまったがね。はっはっは」
「それでいいの?」
「そのときに良く分かったよ。LightWaveはプロ用としては安かったが、それでもプロ用はプロ用。限界領域で耐えられる。でも、アマチュア用の安価なソフトはいかに見かけ上よく出来ていても限界領域でボロが出てしまう」
「なるほど」
「CG雑誌とは縁が切れてずいぶん時間が経過したけど、まさかこんな形でまたCG雑誌を買うという形で縁があるとは思ってもいなかったな」
「あ、ヤマトとかのテクスチャの画像もけっこうよく載ってるね」
「うん。貴重な資料だよ。How to build YAMATOが良く分かる」
もうちょっと踏み込むと §
「ちなみに、ヤマト特集が終わると次はシュレック特集のページだ。オタクがCGで連想する2次元のペイント絵の比率は雑誌全体で少ない。というかほとんど無いに等しい。探せばそれっぽい絵がないこともない程度」
「ヤマトの位置づけが分かる雑誌だね」
「サンライズ荻窪スタジオという記事があるが、3Dベースでアニメっぽい絵を作っている話で、2次元ペイント系ともやや異なる」
「なるほど」
「ヤマトもシュレックも出てくるけど、ガ○ダムはガの字も無い世界だ」
「他の月号でも無いの?」
「まあCGでガ○ダム作る仕事があれば、そういう特集は組まれるかも知れないけど、『ヤマトって素晴らしいですね』という内容にならないのと同じく、おそらく『ガ○ダムって素晴らしいですね』という内容にならないだろうな」
「プロがこうやってこの映像を作りましたって記事になるってことね」
「うん。どういう人が、どういう工程で、何を使って、結果としてどういう映像が出来たのかってことだ」
「主役はあくまでメカでもキャラでもなく実際に作った人になるわけだね」
オマケ §
「でもさ。おいらプロじゃないけど、こっちの世界に近いわけだよ」
「何と比較して?」
「アニメ雑誌とかよりもこっちの世界にずっと近いわけだ。仕事じゃないけどPoserでレンダリングしたばかりだしね」
「なるほど。そういう意味では回帰ってことだね」
「違う道を進んでいたつもりが、はたと気付くとヤマトがそこにいる」
「なかなか素晴らしい縁じゃないか」
オマケ風 §
「ちなみに、これがゆきかぜではないかと推定したモデルがゆきかぜだった。ゆきかぜ艦としてそれが掲載されていた」
「なるほど」
「しかし、こうしてCG雑誌でゆきかぜを見ていると、確にゆきかぜだと分かる」
「どういうこと?」
「扁平、先端に2本の突起、大型航空機の操縦席のような前より位置にあるブリッジ、伸びた翼等がゆきかぜの特徴なんだが、これが全部満たされている。駆逐艦的な上部構造物が追加されて軍艦であるという自己主張があると同時に、そういう大型航空機的テイストも盛り込まれているわけだ」
「なるほど。やはり、違うんだけど、まわりまわってこれだと分かるデザインなんだね」
「そうだ。だから、まず違うものを見るんだという決意が必要だが、その決意を踏み越えると同じ場所に案内される。これがSPACE BATTLESHIP ヤマトだ」
「そうか」
「でも、違うものを見るという決意を持てない人には微笑まない」
オマケグラフィックス §
「でだ。どうでもいい余談。本屋でCGの雑誌を探すと実はズバリCGという雑誌がある」
「へぇ」
「でも、自動車雑誌。カーグラフィックなんだ」
「紛らわしいね」
「そんな紛らわしい雑誌迷惑だと言ったら、向こうの方が歴史が古いらしい」
「ははは。不幸なミスマッチだね」
「で、今の自動車のCMはCGで作るんだよ。実物そっくりのCGモデルでCMを作る」
「一回りしてまたCGか」
「紛らわしいこと、この上のない世界だ」
オマケレガシー §
「それで、これがCG WORLDの2010/12/27発売予定の2月号の予告だ」
映画
『トロン:レガシー』
1982年、世界初の本格的CG映画として注目を集めた映画『トロン』
その衝撃から28年を経て、続編『トロン:レガシー脚いよいよ公開される
次号では、『トロン』ワールドの再構築のためげジタル・ドメインが駆使した技術と、同社日本人スタッフの多大なる貢献を余すところなく紹介していく
※次号内容及びタイトルは、予告なく変更となる場合があります。あらかじめご了承ください
「トロン:レガシーか」
「やはりヤマトのライバルはトロンらしいな」
「そうか」
「でもさ。実は『同社日本人スタッフの多大なる貢献』という文言が利いてるぜ」
「そうか。一見、邦画対洋画の構造に見えるけど、トロンも日本人スタッフの比重が大きいとすると実は日本人対決になるわけだね」
「2010年年末の大決闘だ」
荻窪オマケ §
「1つ余談だが」
「うん」
「サンライズ荻窪スタジオの記事の中で森田修平監督の言葉で、CGはペンと一緒で道具に過ぎないと言っている」
「それで?」
「それはおいらの昔からの主張というかポリシーと全く同じ」
「どういうこと?」
「CGは画材の1つでしかないわけで、CGを使えば上等というわけでもないし、道具としての使いこなし次第。あくまで主役はそれを使う人間。機械的で冷たい絵しか作れないという決めつけは、使っている人間の人間性を認めず機械の奴隷扱いするような『人間差別』だね」
「じゃあ、同意するわけ?」
「いや、全面的にはどうかと思う」
「というと?」
「CGはジャンルとして存在せず、実写作品とアニメ作品の2つしかない、という言い方は同意できないな。実際には実写とアニメの境界もなくなりつつあると感じる。が、しかし」
「しかし?」
「おそらく、サンライズの社内にはこの境界が存在する。あるいはアニメ界にはね」
「どういう意味?」
「映画館に通っているおいらの立場から言えば、もうアリス・イン・ワンダーランドとかさ、アニメそのままのキャラと生身の俳優が同じ画面内で共演するのはもう当たり前で、境界なんて無いんだ。でもさ。ガ○ダムに生身の俳優が入れるかといえば、おそらくまだ入れない。俳優を扱い方うための方法論もシステムもずっと無かったし、付け焼き刃で導入しても上手く行かないからだ。それなら職人芸の超絶技巧に頼った方がよほどいいものができる」
「でも、超絶技巧に頼ると、ますます生身の俳優との付き合い方が会得できないだろう?」
「そうさ。だからもっと言ってしまおうか?」
「どういうこと?」
「CGは画材の1つというのと同じように、俳優も画材の1つでしかない」
「俳優も道具?」
「もちろん、人間を物扱いせよ、という意味ではない」
「でも、既に俳優はCGと交換可能ってことだね?」
「あるいは、音楽で、人の声も楽器の1つとして使うのと同じことだ」
「凄い割り切りだな」
「だから、そこまで割り切れれば新しい世界に行けると思うが、そこまでの割り切りにはまだまだ遠いだろう。道具と本質の取り違えは意外と珍しくない」
オマケすり替え §
「だからさ、ヤマトの記事中にある絵コンテを見ると、生身の俳優がCGへのすり替えって表現があるんだよ」
「どういうこと?」
「ワイヤーで釣って吹っ飛ばされる乗組員は、最初俳優だけど途中からCGになるってことだ」
「ええっ?」
「だからさ。生身の俳優とCGの映像は等価なんだ。あくまで映像を作る都合によって自由に選択できるってことだ」
「そうか。それがCGも俳優も画材に過ぎないってことか」
「そういう意味で、実はSPACE BATTLESHIP ヤマトの世界は既にその割り切りができている世界なんだろう。というか、三丁目の夕日の時点で既にできているんだろう」