「実はパンフをあらためて見て気付いた」
「なに?」
「SPACE BATTLESHIP ヤマトのパンフの登場人物紹介は組織図的になっている」
「うん」
「だから古代守は、沖田艦の下の宇宙駆逐艦ゆきかぜの下にある」
「そうだね。順当な表現だ」
「ところが、沖田艦の下にはもう1つ名前がある。宇宙戦艦きりしまだ」
「えっ? そんなの出てきたっけ?」
「名前が出てきたのは沖田の息子が乗っていたふゆづきだけだ」
「そうだよね」
「実はきりしまは、ふゆづきの旧設定ではないかという気がする」
「どうして?」
「ゆきかぜと並んで記載する価値があるのは、沖田の息子が乗っていたとして話題になる艦だけだからだ」
「そうか」
「ならば、なぜ『きりしま』は『ふゆづき』に変わったのか」
「はて、なぜだろう」
「その前に、『きりしま』とは何だろう」
「戦艦霧島が元ネタってことなのかな」
「太平洋戦争で活躍した金剛級の高速戦艦だね」
「でも、海上自衛隊のイージス艦のこんごう型護衛艦『きりしま』ってことも考えられるね」
「その場合、宇宙戦艦という表記とは対応しなくなるが、ひらがな表記とは対応するね」
「では『ふゆづき』とは何だろう」
「ヤマトにずばり出てくる冬月だろうね」
「うん。そこから逆算して考えると、『きりしま』はヤマトネタの名前ではないが、『ふゆづき』はヤマトネタの名前なんだ」
「そうか、ヤマトネタを拾うなら『ふゆづき』に変更すべきという意見が途中で出てもおかしくないのか」
「あとさ。位置づけとして霧島は主力艦なんだ。いくらロートルの見劣りする戦艦でも主力艦のうちなんだ。海上自衛隊のきりしまにしても、やはり海上自衛隊の主力艦だ」
「そうか、対する冬月にその主力艦というイメージはないわけか」
「沖田艦隊の名もないやられ役に割り振るには、きりしまよりもふゆづきの方が何倍も似合う……のかもしれない」
「本当に?」
「さあな」
きりしまのルーツを探る §
「小学館文庫版を見ると、僚艦の名前は『しらつゆ、ひえい、いそかぜ、はつゆき』なのだが、おそらく護衛艦のイメージでの命名だ」
「なぜ?」
「旧日本海軍の名前とするとこのラインナップではひえいが浮いてしまうからだ」
「海上自衛隊の護衛艦とすれば浮かないということだね」
「更に言えば、きりしまも浮いてしまわない」
「そうか。そこで、きりしまが元企画案の名前と推定されるのだね」
「うん。更に言えば、これは企画が紆余曲折していることを意味する」
「そうか。ディープなヤマトネタの集積体として成立する前の段階の企画案が尻尾のように生き延びている可能性を示唆するわけだね」
「とはいえ、このラインナップは悩ましい。もともとのヤマトは坊ノ岬沖海戦の参加艦艇から名前をもらっているのだが、いそかぜ、ゆきかぜはそれで理解できるが、しらつゆは解釈出来ない。はつゆきも解釈出来ない」
「そうか」
「一方で、旧日本海軍の霧島と比叡は同型艦というだけでなく、ソロモン方面で相次いで戦没しているので、そういう意味ではペアで出てきてもおかしくない名前ではある」
「悩ましいね」
「この悩ましい屈折は解き明かすことができれば、作品成立の過程を解き明かすことになるのかもしれない」
「そうか」
「ともかく、山崎監督が就任する前に、ヤマトじゃないヤマトの企画があったらしいことだけは別の径路の情報から確かだ」
藪の謎 §
「実は2回目の鑑賞ではたと気付いた」
「何を?」
「徳川と一緒にいる機関室のスタッフが数名見える」
「うん」
「もしかして、その他大勢の扱いではなく、この中にちゃんと藪という役名が設定された男がいるのではないか」
「ええっ!?」
「名前も呼ばれないし、映画の中でそんな男がいるという話は1つもないが、いちいちそういう設定があっても不思議ではないと思った」
「それで?」
「ちょっと調べたら、WikiPediaにいつの間にか『藪 - 水上潤』という記述が追加されていた。まあ、具体的な名前が入っているのできっと正しいのだろう」
「そうか」
「だから、主要登場人物として紹介されていない多くのキャラが設定されている。実際の映像では何も役目を果たさず、モブキャラ状態であっても、いちいち名前が設定されている可能性がある。チーム古代も、森雪、加藤、山本、古屋の他に2名いるが、彼らも名前がある(ノベライズには出てくる)。杉山と飛田という名前が与えられている」
「それは映画としては無意味じゃないのかい?」
「そこは、作り手が勢い余って、半歩踏み越えちゃった世界なのだろう」
オマケ §
「もしかして、通信カプセル発見時のBGMは、サントラに入ってないのではないかな? あるいは音楽ではなくSE扱いかな?」
「良く分かるね」
「そのために、サントラだけをひたすら聞き続けて頭に入れ続けたのだ」
「そんなに?」
「子供の頃、ひたすら交響組曲だけを聴き続けたように、サントラCDだけヘビーローテーションでまわしているよ。まあ多少は他のものを聞くケースもあるけどね」
「でもそれは凄い話じゃないか?」
「なぜ?」
「聞き飽きるケースが少ないわけだろ?」
オマケ2 §
「ちなみに、SPACE BATTLESHIP ヤマトは格納庫の空気感がいい」
「そう?」
「と思ったら伊勢湾フェリー改造だそうだ。パンフに書いてある」
「そうか」
「これはいい判断だ」
「どうして?」
「アメリカ映画なら本物の空母の格納庫で撮るんだろう」
「うん」
「でも今の日本には空母はない」
「そうだね」
「では何を使って撮るか」
「そうか。小型の乗り物を多数収納するスペースを持つ船といえば、フェリーが近いのか」
「こういうことは、頭で考えて描いてもしょぼくなる。現物の方が、はるかに説得力がある」
「うん。細かい相違はVFXで対処すればいいわけだね」