「書き忘れたネタを書いておく」
「なんだい?」
「紅白歌合戦の最後にでかでかと出たよ」
「なんて?」
「白組優勝」
「それがどうかしたの?」
「まるで、SPACE BATTLESHIP ヤマトを製作した白組が優勝したみたいじゃないか。愉快愉快」
「錯覚だけどね」
「でもトリのSMAPの一員が木村拓哉ってことを意識すると、白組が白組に見えてしまうのだ」
「ははは」
「じゃ、本題に行こうか」
「頼むよ」
本題 §
「去年1年間、ほぼ1週間に1本の割合で映画を見た」
「うん」
「そこで感じたことは、実は映画とは何を見せるものであるかだ」
「背景とか、ストーリーとか、演出とか、ヒロインとか、場合によっては宇宙とか過去とか」
「確かにそれもそうなんだが、最終的にそれらは1つに絞り込めることに気付いた」
「それは何?」
「主演の顔だ」
「顔? それ1つでいいの?」
「なぜなら、映画の中で描かれる全てのものを受け止めて集約するものが主演の顔だからだ。それを全て受け止められる俳優だけが主演をきちんとやれる。それを背負うことができる人間が、ただのタレントではない『映画スター』なのだ」
「そうか」
「だから、アリス・イン・ワンダーランドを見るとき、ジョニー・デップの顔を見たいから、と思って見に行ったことはある意味で正解」
「厳密には主演じゃないよね。ハッターは」
「でも、ポスターで宣伝されたのはアリスよりハッターのなのだ。つまり映画の『顔』なのだ」
「なるほど」
「他に、去年見た洋画でナンバーワンと感じたNINE。映画監督がひたすら女性関係で失敗し続けるだけの映画だけどさ。主演はそういう話をひっくるめて背負うことができる顔だったわけだよ」
「そうか」
「だからさ。ただのアイドルやタレントの他に、『映画俳優』というカテゴリは確かにあって、中でも映画を代表する顔をやれる人間だけが『映画スター』と呼ぶに値するわけだ」
「うん」
「たとえばさ。実写の忍者ハットリ君。一見、頬にぐるぐるマークを描いた忍者服で馬鹿みたいに見えるけどさ。主演の香取慎吾は映画の中にある重さをちゃんと受け止めた顔で演技できた」
「どういうこと?」
「だから、変な格好のコスプレ男が出てきてウケるだけの出オチじゃなかった、ということだ」
「どうせアイドルのSMAPだから、という感じの色眼鏡も多い気がするけどね」
「そうだ。でもさ。おいらが歌番組をよく見ていた子供時代は、キャンディーズとかピンクレディーとかアグネス・チャンとかフィンガー5の全盛期であって、SMAPはあまり縁がない。なので、別に肯定も否定もない。まずそれが前提」
「ぜんぜん縁がないの?」
「強いて言えば、赤ずきんチャチャは見ていたな」
「関係あるの?」
「主題歌がSMAPで、主人公の相手役の声が香取慎吾であったのだ」
「それで?」
「別に否定的に捉えるような印象は何も無かったぞ」
「そうか」
「だから、こちらはニュートラルであることが大前提だ」
「そこに、にゅーっと出てきたのが木村拓哉なのだね」
「その通りだ。従って、あくまでこちらの見る点は1つに絞られる」
「どこ?」
「映画の『顔』になれたかだ」
「ヤマト愛は関係無いの?」
「映画の『顔』になれないのなら、そんなものに価値はない」
「そこまで言い切るの?」
「だってさ。沖田艦長の山崎努など、別にヤマトのファンではなかったと明言しながらヤマトを名演技で支えてくれた人達もいるのだ」
「うん。分かった」
「いや、分かるべきではない。ヤマト愛は重要だ」
「ヤマトはやはり愛か」
「まあそれはそれとして。だから、SPACE BATTLESHIP ヤマトという映画にあって、実はヤマトは背景なんだ。主演は木村拓哉なのだね。木村拓哉の顔が作品の顔なのだ。だから、むしろヤマトの正面に木村拓哉の顔が付いているような状態こそが、作品のあり方をよく示していると思う」
「なるほど」
「と思ったら、実はヤマトの正面に木村拓哉の顔が張り付いているようなポスターが本当にあったのだ」
「それはびっくりだね」
「だからさ。なんちゃって映画ファンであるおいらが考える映画スターの資質を立派に木村拓哉は満たしているのだよ。ただのアイドルやタレントではない、映画スターの資質をね」
「それは無理矢理ヤマトは悪くないと思うためにひねり出した理屈じゃないの?」
「とんでもない。映画は主演の顔だという話は、SPACE BATTLESHIP ヤマトなど全く具体的に見えない去年の前半に思ったことなのだ。SPACE BATTLESHIP ヤマト抜きで映画のあるべき姿が見えてきたのであって、SPACE BATTLESHIP ヤマトを当てはめる気はさらさら無かったよ」
オマケ §
「この話を書いてあらためて思った」
「何を?」
「アニメと繋がっているヘソノオは切れかかっている」
「なるほど。ほとんどアニメの話が出てこないよね」
「赤ずきんチャチャだけだ。しかも本筋と関係無い説明に出しただけだ」
「忍者ハットリ君の話ですら実写だものね」
「余談を更にぶっ飛んでいこうか?」
「まだ先があるの?」
「そもそもなぜアニメなのか。日本はもともと特撮大国だ」
「うーん、なぜだろう」
「実写がやるべきことをやらない時期があったからだ。実写の世界が欠落させた穴を埋めるために、アニメが勃興しただけ。でも、穴が埋まったらアニメの出番はけして多くはない」
「そんなことを最近は考えてるのか」
「ノンノン。もっと昔よ。アニメブームの全盛期の話よ」
「えっ、そんな前から?」
「そうだ。そもそも、おいらはウルトラセブン世代だってことを忘れてもらっては困る。特撮当たり前の世代だ。Attack the hawk missile, fighter Seven!」
「うーむ」
「少年ドラマシリーズとか、マイティジャックとか、そんなのを子供として見てきた世代なのだよ」
「そうか」
「5年3組魔法組とか、好き! すき!! 魔女先生とか、BD7の少年探偵団とか」
「そんなのばっかだね」
「10-4 10-10とか怪奇大作戦とか」
「うわー。ウルトラとライダーがぜんぜん出てこない」
「戦隊もな」
「ってか、変身ヒーローがほとんど無い。かろうじてアンドロ仮面?」
「型にはまった変身ヒーローなんてつまらん。変身せず顔で勝負する主役が昔は数多くいたのだ」
「そういう作品を支えるダイナミズムを欠いていた時期の徒花がアニメブームの実態ということかね」
「もちろん、穴を埋める役目はアニメとは限らない。ライバルを蹴落とす力をアニメが持っていたことは事実なんだろう」
「でも、穴があっての話だね。埋まったらもう望みはない」
「だろうね」
オマケ2 §
「実は、今回のSPACE BATTLESHIP ヤマトの件で、ヤマトファンからのメッセージというのはいくつも受け取っているが、1つ予想もしなかったものを受け取った」
「なに?」
「木村拓哉ファンの方からだ」
「えーっ?」
「結局、質の悪いアンチの跳梁にほとほと困っている、という状況はヤマトファンも、木村拓哉ファンも同じらしいな。意外と話は合いそうだと思った」
「そんなに上手く話が合うのかな」
「合うと思うよ。なぜなら、SPACE BATTLESHIP ヤマトの顔は宇宙戦艦ヤマトじゃなくて木村拓哉だからだ。宇宙戦艦ヤマトを見て良いと思うのじゃない。艦内の人間模様を見て良いと思うのであり、その焦点は木村拓哉が演じる古代が担う」
「結果的に見ている領域が近いわけだね」
「まあ実際は人それぞれと思うけどな」