「アンテナ? リレー衛星。ヤマトのものではない。ガミラス……、そうか通信が回復したのは偶然じゃなかったんだ!」
「SP03こちら古代機、相原を発見!」
「おーい!」
「相原!」
「古代、ガミラスのリレー衛星だ。破壊しよう」
「よし、相原、君が撃て!」
ダダダ、ドカーン!
「めでたしめでたしだな。はっはっは」
「ああ、すっかり目が覚めたよ」
「よし、相原も元気になったし、一安心だな」
「古代、安心したら急に食欲が出てきたよ。腹一杯食べたい気分だ」
「今までの分を取り戻すんだ。好きなだけ食べろ!」
「それは戦闘班長としての命令かい?」
「そうだぞ。気弱にならないようにしっかり栄養を付けろ。その代わり、今度飛び出したら承知しないからな。はっはっは」
しかし、食糧事情の厳しいヤマトで好きなだけ食べろという命令がどんな残酷な結末を招くか、気付いていない古代であった。しかも、相原は形式上、航海班長島の部下である。
「なあ島。オレ思うんだけどさ」
「なんだ、古代」
「ワープ中に艦外に見えるあの恐竜。あれ捕まえて食料にできないかな?」
「バカを言うな。緻密な重量計算をしてワープしてるんだぞ。降りるのも乗せるのも無理だ」
オマケ §
「私、鷺沢萌。恐竜惑星のヒロインよ。あなたの願いを叶えてあげるわ。さあ恐竜の肉をどうぞ」
「なんだって、さては偽物だな。おおむね人間に化けて艦内に潜入したガミラスの女スパイってところだろう」
「ぎくっ、どうしてばれた!」
「だって、恐竜惑星のヒロインの姓は鷺沢じゃないからだ」
「うわーん、みんなそう言ってるのに! ノイローゼになりそう、どうしてなのよ」
「艦内に侵入するガミラスの女没キャラの名前はイローゼだからノイローゼで当たり前」
オマケ2 §
「しかし、萌え論議の質の低さには驚くばかり」
「どうして?」
「ほとんど事実無根の話が一人歩きしているよ」
「鷺沢って姓だね」
「それは100%の客観的間違いなのに、どんどん間違いが増幅されている」
「恐竜惑星調べれば誰でもすぐ間違いだと分かるのにみんな調べてないってことだね」
「たぶんな」
「でも、恐竜惑星のヒロインが萌という名前なのは本当なんだろ?」
「凄くマイナーで大多数のオタクが知らなかったような作品だぜ。なんでそんな流行語の発信源になれるんだよ。しかも、もっと前から用例はいくらでも見たことあるんだぜ」
「そんなにマイナーか?」
「だって、萌という名前をみんな取りざたするけど、ハルとかアッケラ缶の名前を語ってる奴なんて見たこと無いぞ。極一部の例外を除いて。あっけらかーん!」
「ははは」
「実際、無批判無検証の孫引きの多さに驚くぞ」
「そんなに酷い?」
「たとえばWikiPediaの説明を引用してみようか」
オタク評論家岡田斗司夫が紹介した、NHK教育テレビ番組『天才てれびくん』の枠内で放映されたSFアニメ作品『恐竜惑星』のヒロイン「萌」を語源とする説[1]が、有力な説として語られている[2]。当該作品の制作サイドの中心人物の一人であった金子隆一が自著において、当該作品の発表以前に既に「萌え」概念は存在しており、この説は事実ではないと主張している(ただし、金子氏はそれを直接確認してはいない)。
「へぇ。なんかねじれた文章だね」
「明らかに間違っている岡田斗司夫説が『有力な説』と持ち上げられているのに対して、よりまともな突っ込みを入れている金子隆一さんの方がまるで個人的にあやふやなことを言っているかのような扱いだ。しかも、金子隆一さんの発言は『あの有名なXXのルーツはうちにある』という我田引水の話じゃない。逆に、『あれはうちじゃないよ』と言っているんだよ。かえって自分から利益を遠ざける話をしてるだけだ。そのためにあやふやな作り話をわざわざすると思うか?」
「金子隆一さんって誰?」
「恐竜惑星の有力なスタッフの1人だ」
「バリバリに当事者じゃん。当事者の発言が軽んじられるのかい?」
「そうさ」
「ひでーな」
「ね、酷いだろ?」
「それ以前に恐竜惑星は天才テレビくんという番組内番組だから、まず天テレ語れなかったら語りようがないだろ。というか、本来天才テレビくんの出演者の少女がアニメの世界に入るという話なのだぞ」
「生身の俳優にアレルギーのある2次コンオタクについて行ける世界じゃないわけだ」
「その点で既におかしい説明なんだよ。3次元の女はダメだとのたまうオタクに語れる世界ではない。そこから彼らが信奉する用語が生まれたなんてことは説明に無理がある」
「おかしい話だね。でも、どうして?」
「恐竜惑星というアニメがあるという間接伝聞で分かった気になっているだけで、実際にはほとんど誰も見てないってことさ」
「自分の常識の上でアニメは実写に反するものであると思い込んで実写を含んでいるとは考えもしないわけだね」
オマケIII §
「しかし、この話は実は1つだけ重要な話につながる」
「というと?」
「この恐竜惑星という作品、実際にはオタクの萌えとの関連はほとんど無いが、ヤマトとの関連なら語れる」
「というと?」
「この作品、実は生身の俳優とCGキャラとアニメのキャラが平然と会話するような作品なのだ」
「えっ?」
「つまりさ。アニメ時代とVFX時代のブリッジのような作品なのだよ」
「そうか。過渡期だから混濁しているわけだね」
「そうだ。その混濁を抜けると、もう復活編のようにアニメとCGの境界が良く分からないほどこなれた映像ができたり、SPACE BATTLESHIP ヤマトのようにVFXベースの実写作品になれるわけだ」
「むしろそっちが重要だね」
「結局、恐竜惑星を始祖とするジーンダイバー、ナノセイバーのシリーズが残した教訓は、アニメと実写の世界は仲良くできるはずがないほど水と油ということだった。マニアの間では評判が良かったのに、ナノセイバーで終わってしまったわけだ」
「そうか、だから復活編とSPACE BATTLESHIP ヤマトというまるで違う映画が僅か1年という時間間隔で作られるわけだね」
「企画を統合して一緒に作ることもできないほどかけ離れていたわけだ」
オマケ完結編 §
「で、君はどっちにつくの?」
「女」
「だろうな。って違う」
「どっちにつくという話ではない。アニメは滅びつつあるジャンルであり、VFXは勃興しつつあるジャンルであると見なしているけどな」
「どいうこと?」
「だからさ。アニメには老獪な円熟期ならでは優れた作品を期待するし、VFXにはフレッシュで大胆な映像を期待するってことだ。そっちはまだまだ未来に伸びるのびしろがある」
「じゃあ、期待するところが違うってことだね」
「でも、アニメはどんどん作りにくい時代になってきている感じだろう。昔ならヤマトもDC版なんて言わずにTVスペシャルの1本ぐらい作れたと思うよ」
「よほど強力なバックを持たないと安定してアニメは作れない時代になったということかな?」
「アニメは、任天堂をバックに持つポケモンや、アメリカ市場での圧倒的支持を背景にしたNARUTOみたいな作品が残るだけなのかもしれない」
オマケ復活編 §
「結局、この話題は復活編の先行きにも影響を及ぼす」
「えっ?」
「アニメとCGの融合なんてものは、強力なカリスマを欠いたら瓦解する」
「それって」
「善悪じゃない。単純に物事を牽引できる有無を言わさない人格がそこに存在してジャッジしない限り、アニメとCGは分離してしまう。そういうものだろう」
「じゃあ、ヤマト復活編も?」
「同じ路線で続編を作るのは難しいだろうな」
「不可能とは言わないのだね」
「カリスマが育つなら可能性はゼロではない」
「育たなかったら?」
「無理かも知れない。まあ分からんけどな」
「その場合はヤマトの時代はもう終わるってこと?」
「アニメのヤマトの時代は終わるかもしれんが、実写のヤマトの時代は始まったばかりだ。ヤマトの時代はまだまだ終わらんよ」
「でも、君のヤマトの時代は終わりそうだね」
「そうさ。お腹いっぱいになったら食欲はなくなる」
「ヤマトで満腹?」
「たぶん生まれて初めての経験だよ」
オマケブリッジ §
「つまりさ。アニメ時代とVFX時代のブリッジのような作品なのだよ」
「ブリッジって第1艦橋?」
「そうだ。第1艦橋が恐竜惑星で第2艦橋がジーンダーバーで第3艦橋がナノセイバーだ。ってブリッジの意味が違う。涙ジョー」
「泪橋を逆に渡れ!」
オマケノア §
「金子隆一さんって誰?」
「うん。単なるヤマトファンであるなら無理もないが、間接的には関係する名前である」
「というと?」
「彼はヤマトのスタッフではない」
「そうだよね」
「でも、宇宙空母ブルーノアのSF監修なのである」
「わはは。ブルーノアか。ヤマトに近い。けど意外と遠い」
「更に昔、暴露話を書いていたことでも一部には有名だ」
「暴露話?」
「凄くいい加減にまとめるとアニメでSF監修なんてやるもんじゃない、という話だ」
「やっちゃいけないの?」
「こだわるポイントがあまりにも違いすぎて話がまるで噛み合わないが、たいていマイナーなSF側が負ける」
「わははは」
「だからさ。『銀河連峰はるかに超えて光と共にやってくる』と言えば素晴らしいと思う人と、連峰は星の地表の地形のことであって銀河を表現するために使える言葉じゃないと思ってこだわる人では話が合うわけ無いんだよ」
「じゃあ、別々にやればいいじゃん」
「でも、アニメにSF考証ってスタッフがいた方が高尚だと誤解する人も珍しくない」
「話がねじれてぐだぐだになるわけだ」
「本来は簡単に解消できる問題なんだけどね」
「どうして?」
「科学的な用語にこだわって科学的にやりたいなら、科学的な用語をいい加減に使ったら不味いだろうという話」
「それが堅すぎるんだろう?」
「柔らかくしたければ、科学じゃなくて魔法の世界にして、独自の魔法用語を使えばいいんだ」
「わははは。でも、その話は丸ごとヤマトにも当てはまらないか」
「あてはまるぞ。科学者に話を聞きに行って映画を作る割に科学的な側面はかなり曖昧だ」
「そうなるよね」
「でも、無念の船が浮かび上がる亡霊戦艦大和では話がまとまらない、というのも事実だ」
「宇宙戦艦ヤマトとどうしても言わないとならないわけだね」
「そこがヤマトの捻れた部分だ」
オマケミュージアム §
「杉並アニメーションミュージアムに行って驚いた」
「どこが?」
「ヤマトの存在感がまるでない。ガンダムはあるのに」
「ヤマトは杉並区で作ってないからね」
「そうだ。凄く杉並っぽい井荻という人が作詩してるガンダムとは大違いだ」
「わはは」
「でも、本当に驚いたのはそこじゃない」
「何?」
「アニメーションの未来というパネルに書いてあったのは、さりげない現状への苦言とアニメが未来を持つためには手描き2Dではなく3DCGしかないという明瞭なメッセージ性だ」
「ほほう。君の意見と正反対だね」
「いいや、根っこにはおそらく共通の問題認識がある」
「えっ?」
「おいらの主張は、アニメ業界が3DCGを使いこなせてこなかったという点にあるが、ミュージアムの主張はこれから使いこなしていくべきである、という点にある」
「時制が違うんだね」
「うん。『これから使いこなしていくべきである』という言い方は、つまり今はまだ使いこなせていないということに他ならない」
「でも君は水と油と言ってるじゃ無いか」
「だから強く訴えかけるメッセージが必要とされるわけだ」
「なるほど。馴染みやすいジャンルなら別にわざわざくどくど言う必要も無いってことだね」
「おいらは業界人では無いから水と油と表現するまでのレベルで良いが、業界内部の当事者としてはその先まで踏み込む必要があるのだろう。たぶんな」
「じゃあ、現状は厳しいという認識は一致しているの?」
「たぶんな。それに、手描き2Dの世界を無条件に良いものと肯定せず、ピクサーの映画を引き合いに出して3DCGを褒めることにも抵抗がない価値観はアニメ業界でも異端的で、むしろおいらに近い」
「つまり、私の心ははるかに君たちに近いんだね?」
「デスラー!」