「というわけで、待望のTOHOシネマズでは映画が1000円で見られる毎月1日が到来だ」
「わーい」
「ナルニアを見るか、英国王のスピーチを見るか悩んだ」
「それでどっちを見たの?」
「しかし、実際に見たのはソーシャル・ネットワークであった」
「なぜ?」
「まだ1日1回上映していたし、時間も悪くなかった。そして、8割ぐらい義務感によって見ようと思った仕事関連の映画だ」
「映画は仕事抜きじゃないの?」
「これに関してはそうとも言えない」
2つの感想 §
「それでどうだった?」
「この映画には2つの全く違った感想がある」
「どうして違うの?」
「実話としての感想と映画としての感想が正反対であるからだ」
「それを語ってくれ」
実話としての感想 §
「実際は実話をベースにしたフィクションだがな」
「それで?」
「結局、Facebookというのは社会性も協調性も他人を理解する力も無いガキが勢いだけで作ったサービスで、突き詰めると女とやりたいという要素しか残らない」
「そうか」
「だから、怖いから避けて通ろう、としか思えない」
「わはははは」
「当初、実名原則ということでもうちょっとマシな世界に行けるかと思ったけど、実際は日系のロシア人と主張するだけで変なハンドル名での登録が通るとか、嘘か本当か、怖い噂も多いしね」
「君はFacebookのIDを持っていないのかい?」
「世間でこれほど流行る遙か前に既にIDは取っている。残念ながらね。でも、そのIDを活用する気は全く無い。しかも映画を見て、利用しようという意欲が減った」
「感想はそれだけかい?」
「いいや。おそらく、おいらがもっと遅く生まれて、しかももっと馬鹿だったらFacebookが作れた」
「そこまで言うのか?」
「常識とか理性とかしがらみとか約束とか保障とか、いろいろなものが行動を制約するからな。そういうものを軽視できる馬鹿さが無いとああいうことはできない」
「じゃあ、真似をしたいとは思えないのだね?」
「結局、映画の主要登場人物は誰も幸せになっていない。不幸せを自ら望むものか」
実話としての感想2 §
「ApacheだとかLinuxだとかディレクトリが見えるとか、wgetで画像を取ってくるとか、技術的な話は良く分かったけど、一般の観客が分かったかは分からない」
「wgetかい」
「昔のApacheはWebでアクセスするとindex.htmlの無いディレクトリはファイル一覧が見えるのがデフォルト設定だったんだ。途中でオフがデフォルトになったけどね」
「詳しいな」
「昔は一応使ってたからな」
「IIS一筋じゃないんだ」
「ただ、あれほど容易に画像を集められるとはちょっと信じがたいな」
「主人公は天才だからハッキングできるってことじゃないの?」
「極常識的な配慮をするだけで、一瞬でサーバを私物化するのは難しくなる。例え私物化できるとしても、こんな短時間でできるかは怪しい」
「ってことはどういうことなんだろう?」
「主人公が天才だからハッキングできた、ということではなく、もともとセキュリティが甘かったのだろう」
「まさか」
「いや、設定年代が不詳だが、意外と安全神話にすがってインストールしたままというLinuxマシンは初期には多かったみたいだぞ。だから、そこがつけ込まれる隙になっていた。既知のホールが残ったままということだ」
「えっ、そうなの?」
「侵入されたマシンのOSの中でLinuxが少ないという話は無い」
「管理されないマシンはOSに関係無く侵入されるってことだね」
「実際、作中でも主人公は大学のセキュリティ担当者の無能を指摘している。おしらくそれが正解なんだろう」
実話としての感想3 §
「Altia8800のBASICを4Kのメモリでユーザー領域込みで動かすというのは、ビル・ゲーツとポール・アレンが作ったBASICではなくTiny BASICの話じゃないかな。そこはリサーチが甘い気がしたが、きちんと記憶してはいないので曖昧だ」
映画としての感想 §
「ああ、こんどはB面行くぞ」
「古くさい表現だね」
「映画としては極めて面白い構成を取っている。シナリオの質が高い」
「あれ、褒めてるの?」
「そうだ。褒めている」
「どうして?」
「主人公がどうしようもないダメな自己中男として登場し、多くの人間を裏切り、敵失に助けられて成功したに過ぎないことが延々と描かれる。間違いに気付くのはまさに結末間近だ」
「ははは」
「このダメ野郎は最初のシーンからして言ってることの意味が不明だし。しかも女にあっさりふられるし、謝ることもできない。人間として、とことんダメな野郎だ。しかも、自分が悪いのに相手の悪口をブログに書き殴る。腹いせに、他人のプライバシーを弄ぶようなサイトまで作る。これほど見ていてダメダメな主人公も無いだろう」
「なのに、この映画を褒めるの?」
「大切なことは何も分かってない馬鹿男が、やっとそれに気付くまでの苦闘の話だからな」
「主人公は頭がいいのじゃないの?」
「いや、別にそれほど頭は良くないよ」
「天才は理解されないって話じゃ無いの?」
「いや、ぜんぜんそういう映画ではなかった」
「じゃあ、どういう映画なの?」
「周囲への配慮を欠いてプログラムにだけ集中するとFacebookができるけど、友達無くすし、敵も増えるよって映画だ」
「それでも褒めるの?」
「ああ。映画としては凄くいい。そもそも主人公が間違うのは映画の1つの定番だ。GANTZだって、ハイブリッド刑事だって、主人公は観客から見て明らかに間違ったことをしてしまうが、映画としてつまらないわけではない」