「この記事を読んでけっこう愕然としたぞ」
「どうして?」
「現在の我々が置かれた立場は、戦後の日本人が誰も経験したことがないような未曾有の緊急事態であって、いつもの日常がそう簡単に帰ってくるようなものじゃない」
「むしろ、事件の後でじわじわ来るね」
「テレビの中で東北の人たち可愛そうねと思って、募金して、一晩寝たら忘れるような対応ではダメだ」
「そうだね」
「自転車を買いに走った人たちも多いみたいで、きちんと危機感はあるかと思ったら何も考えないで駅に殺到して甘さを露呈する人たちもいるわけだね」
「うん。『電車が動く』と『平常運転』の間には大きなギャップがあるけど、あまり分かってなかった感じだね」
「逆に言えば、電車を間引いたことで停電を回避できている面もあるのだろう」
「どっちがいいかは微妙だね」
「あと、電車に乗らないと通勤できないぐらい遠い人もいるから、やはり最低限の電車は必要だ」
「自転車で行ける人は電車を遠慮する配慮があっても良い、ということだね」
オイルショックの拡大再来 §
「1970年代のオイルショックというものがあったけど、今回はそれ以上だろう」
「確かに当時は停電まではなかったね」
「しかし、おいら達よりも10年下の若い世代は、オイルショックすら経験していない」
「そうか」
「おいらは空襲も敗戦も闇市も買い出し列車も経験していない戦争を知らない子供達ではあるが、オイルショックを経験しているだけまだマシなのかもしれない、と思ったよ」
「まだしも、心構えがあるってことだね」
「そうだ。しかしそういう心構えがないと、けっこう考えが甘くなるのかも知れない」
「同年代でも甘い人がいるんじゃないの?」
「そうだ。結局、『変電所に被災して京王電車が新宿の坂を上がれなくなって西口に急遽駅を作った』というような話を前提に、最悪はそういう時代が再来してもおかしくないという気分を持った子供と持たなかった子供では、かなり危機感にも差があると思う」
陰謀説 §
「他に驚いたのは、陰謀説を書いてる人がいるってことだ」
「わはははは」
「地震だけじゃなくて、計画停電も原発の有効性をアピールするためだって大まじめに主張してる」
「トンデモさんはいつの時代も元気元気」
「まあ本当にそんな理由で計画停電やったら、発覚した時点で担当者は袋だたきだな。停電で苦労させられた客層から」
「影響は下手すると数千万人? その全員から袋だたきされた怖いぞ」
「ちなみに、オイルショックの頃、けっこうUFOは好きだったぞ」
「えっ?」
「懐かしいなあ」
「そうなの?」
「一生懸命UFOを目撃しようと頑張ったけど、結局見えなかった。幽霊も霊魂もありとあらゆる超常現象を見ようと頑張ったのに全く見えなかったよ」
「わははは」
「そんなものあるはずがないと思い込んでいたら、見えるものも見えないかもしれない。しかし、前向きに信じて見ようとして見えないのなら、やはり無いのだろうな」
まとめ §
「というわけで話をまとめるぞ」
「うん」
「非日常環境で日常を守る。それは難しい冒険だ」
「まさに我々が直面しているのはそういうことだね」
「戦争なら実はもっと楽なんだ。欲しがりません勝つまではと言えば、要するに勝てばいいわけだ」
「負ければおじゃんだけどね」
「それはそれで精神的な区切りになる」
「区切りか」
「それに対して今回の件は終わりが明確ではない」
「仮に電力が戻ってもいろいろな爪痕がどこまで残るか分からないってことだね」
「勝利は存在しない。目の前の現実に負けないための戦いがあるだけだ」