「ヒスはなぜ殺される必要があったのか」
「ヤマトとの和平を唱えて、あくまで徹底抗戦するデスラーに射殺されたのだね」
「この構造は、一見して『現実主義的な平和論を唱えるヒス』が被害者であるかのように見える。だが、本当にそうなのだろうか」
「えっ? 違うの?」
「ある意味で、ガミラスの敗北はヤマト軽視によって引き起こされていた。そのヤマト軽視の風潮の急先鋒は波動砲を豆鉄砲と言い放ったヒスにあるのは間違いない」
「あれ?」
「つまりさ。ヤマトとの和睦というのは、実はデスラーからすれば想定の範囲内なのだ。祝電打ったり、イスカンダルがピンチの時はヤマトに助けられて何とも思わないし、後で古代と奇妙な友情が芽生えたり、敵という以上の連帯感がある。ヤマトは本当の敵だからデスラーは軽視できないが、そこまで行くと愛憎の両方が生まれる」
「屈折してるよ」
「だからさ。『ヤマトとの和平』とか『地球との共存の道』とか、今更おまえが言うのかよ、とデスラーには思えたのかもしれない」
「そうか」
「そもそも、ヒスは物事を言い出すタイミングがずれまくっていた」
「祝電を打ってはいけないときに祝電とか、飲み物を出すタイミングではないのに飲み物を出すとか」
「結局、タイミングが悪かったんだよ。実は、あのタイミングで和平は切り出せない」
「なぜ?」
「実はもうガミラスはほぼ壊滅状態になっていた。しかも、休戦を申し込んで災害救助もできない」
「どうして?」
「ヤマトは反撃の切り札として海底で波動砲を撃った。だから、いかにガミラスに悲劇が訪れようとも、ヤマトは休戦を飲まない。そうしないとヤマトは沈められてしまうところまで追い詰められていたからだ。そして、ヤマト攻撃ではなく、救助に向かうガミラス艦はヤマトにとってのカモになってしまう」
「戦うしかない局面だね」
「厳密に言うと、無条件降伏か戦闘継続しかない」
「無条件降伏もありなの?」
「残存ガミラス人の命を救うにはそれもありだ。しかし、残存ガミラス人の命がどこまで救われるかは分からない」
「えっ? どうして?」
「ガミラス人は遊星爆弾で地球人を殺しすぎた。報復もあり得る。無条件降伏は実はガミラス人の生命を保証しない」
「じゃ、どうするべきだったの?」
「損傷の度合いも大きいヤマトをそのまま押し切って沈めるのが最善の策だ。そうすれば、戦闘終了時に残存したガミラス人の命は助かる」
「爆雷からミサイルに切り替えたのは?」
「そこが、デスラーの戦争センスの秀逸性だ。爆雷攻撃はヤマトに致命傷を与えられなかった。爆雷攻撃はヤマトの退路を断ち、酸の海にヤマトを沈める手段であったが、酸の海に沈めてもヤマトは沈まず、しかも海底火山脈に波動砲を撃ってしまうことが分かった。つまり、爆雷攻撃で酸の海にヤマトを追い込む戦術は否定されているのだ。デスラーはそれに気付いたから、戦闘方法を変更した。しかし、そんな便利な準備は無いから、天井都市の全ビルをミサイルとして使ったのだ。勝てなければどのみちガミラスは滅びるのだから、ここで天井都市をすりつぶしてガミラス人の命を多数失ってもそれでも結果的に生き残るガミラス人は多数になるだろう」
「それはデスラーの残虐性では無く、優秀性?」
「そうだ。なぜなら、ヤマトと戦った他の指揮官達は、用意した兵器や作戦が無効化された後、即座に他の方法を即興で準備することはできなかった。シュルツは反射衛星砲に頼りすぎ。バランでのドメルも自分の作戦に酔っていて、失敗したときの対処を準備していない。七色星団では自爆装置という切り札を用意したが、結果を確認できる確実さがない」
「そんなもの?」
「だからさ。ゴルバに対して戦闘空母で突っ込んでヤマトに『私ごと撃て』なんていう柔軟性は他の指揮官には無いのだ」
「結局、戦って死ねと言われるから特攻するだけだね」
「そうだ。それが勝つ方法だから積極的に選び取るのがデスラーだが、シュルツはそれしかないから特攻した。本当にそれでヤマトを仕留められるかなんて分からない状況でも特攻した。ゴルバを破壊できると確証を持って突っ込んだデスラーとは違う」
オマケ §
「だからさ。デスラーにはそういう意味でまだ甘さがあったんだ。ヒスみたいな分かってない奴を身近に置いてしまう。そこが甘さ。でも、ガミラスが滅んで甘さが取れた。なので、側近にいたシャルバート教徒は即座に射殺だ」
「昔も笑った男を穴に落としたじゃん」
「でも、ヒスの首は切らなかった。煮え切らない甘さが残っていたんだ」
「じゃあ、タランは?」
「ヒスよりマシだったのかもしれないよ。少なくとも余計な一言は言わない」
「そうか」
「タランもガミラス敗北の中で甘さを捨てられたのかもしれない」
オマケ2 §
「タランもガミラス敗北の中で甘さを捨てられたのかもしれない」
「甘さを捨ててやる気が出たタランか」
「そうだな。強いて言うと、やる気が出たタランは、略してヤッタラン?」
「なんかいかにも仕事しないでプラモつくってそうな名前だ」
「いや、きっとここぞというときにやる気を出してくれる!」
「デスラーがデスラー砲を撃とうとしていると、『わいはこういうことをするためにデスラー艦に乗ってるねん』とかいってぶちゅっと撃っちゃう」