「The Art of From Up On Poppy Hillの先行販売を買ったのだが」
「なんだいそれは」
「コクリコ坂のジアートオブだよ」
「ジブリの映画に毎回出ているアレだね」
「そうだ。で、引っかかったのが以下の部分」
The Art of From Up On Poppy Hillの近藤勝也インタビューp34より
そこで去年の夏頃､吾朗監督と二人で1カ月くらいかけて
改めて宮崎さんのシナリオをいろいろな方向から検討してみま
した｡キャラクターがたくさん出てくるけれど､本当にこんなに
必要なのかとか､エピソード自体も海と俊にそれぞれ軸があっ
て､過去の話も出てくるから､どれか一つに絞った方がいい
のではないかとか､シナリオを再構築しなければならないとこ
ろまで突き詰めて考えたんです｡
結局､過去があって今の状況がある｡海と俊の話だけで
はなくて､周囲の大人のドラマもある｡さまざまな要素がから
みあった､乱反射的な物語の見せ方が魅力的なんだというこ
とがわかって､そういう共通認識を得たところから監督も僕も
パーツと視野が開けて､そこからはわりと作りやすくなりました。
「なぜ引っかかったの?」
「結局、群像劇という手法の再発明なんだけど、結局それってヤマトじゃんってこと」
「ぎゃふん」
「書き換えるとしっくり来るぞ」
結局、(古代が3日掛かって歩いた)過去があって今の状況がある｡古代と雪の話だけではなくて、周囲の大人……はとても少ないしロボもいるが、他の乗組員のドラマもある｡さまざまな要素がからみあった、乱反射的な物語の見せ方が魅力的なんだ
「乱反射か」
「ヤマトというのは、乱反射だからね」
「そんなに?」
「だってさ。古代は真田に頼まれてヤマトにまた乗るけど、乗っていない真田の存在感を最初に見つけるのは天馬兄弟だったりする」
「そうか、確かに反射している」
「あるいは、娘はさっぱり古代の価値を認めずどうするのかと思えば、関係ない真帆が古代に褒められてほほを赤らめてしまうのだ」
「わははは、確かに反射している」
「あるいは独房に入ったらヒロインが来るのじゃ無いかと思いきや。来るのは他の主要女性キャラ2名(佐渡と相原)とかな」
「むう、確かに反射している」
「あるいは冥王星基地の必殺武器は反射衛星砲だし」
「武器も、確かに反射している。ってそれは意味が違う」
オマケ・ジブリのヤマト化問題 §
「ジブリがヤマトっぽくなってきている」
「どうして?」
「フネの出番が増えている」
「そうか」
「しかも、コクリコ坂は群像劇になってしまった」
「どうしてなんだろう」
「宮崎駿が持つ隠されたフネに対する欲求があるのだと思う」
「なぜフネ?」
「実は、宮崎駿アニメにはフネが執拗に出てくる。コナンのバラクーダ号、カリ城の高速艇はもとより、ナウシカには昔、星まで行っていた潜水艦風の残骸。ラピュタになるとフネは消えて飛行船になるのだが、魔女宅ではさりげなくキキが海から町に入って無名のフネが多数出てくる。紅の豚は飛行艇の話に見えるが、実は賭の客はみんなフネで集まってきている。ハウルでは唐突に港に帰ってきて空襲で沈められる戦艦が出てくる。が、まだまだ目立つものではない。しかし、ポニョになるともう隠されない。父親はフネに乗ってるし、主人公が船長帽をかぶって巨大化したポンポン蒸気船で出航してしまう。そしてコクリコ坂も完全にフネが軸になったアニメだ」
「むう。フネばかり。しかも存在感が増えてる」
「アリエッティは小さい人の話だからフネは出てこられない……と思いきや、フネの代わりにヤカンで川を下る」
「宮崎アニメじゃないのにそこまで」
「更にコクリコ坂なんてラストは外洋航路のフネに乗るイベントだしな」
オマケ2・なぜコクリコ坂はヤマト的なのか §
「ヤマトというのは、疑似家族なんだよね」
「疑似家族?」
「息子を失った沖田と、親を失った古代が疑似親子になったと思ったら、真田は古代を弟のように思っていたわけだ」
「うん」
「だから、あとから乗った空間騎兵隊は家族的ムードに馴染めずに戸惑ってしまうわけだ」
「新入隊員は?」
「兄貴や姉貴を尊敬していればいずれ馴染める」
「なるほど。それでコクリコ坂は?」
「実はコクリコ荘は下宿で、本当の家族と下宿人が住んでいる。しかし、朝食はみんな一緒に食べる。本当の家族は4人で、下宿人は3人だが全員が同じものを食べる。厳密には食べない人もいるわけだが」
「そうか。家族がキーになるとどうしても家族思いの古代とテーマがかぶるわけだね」
「コクリコ坂の最終的な話は、実は家族の問題になる。血が繋がっていて家族なら結婚して家族になれないが、血が繋がっていないなら家族では無いから結婚して家族になれる。そういう問題が最終的に残る」
「いやに矛盾した命題だね」
「つまり、最終命題としてこれだけ重く『家族』が残る映画はジブリでも珍しい。そういう意味でも、やはりヤマト的なのだな」
「そもそも、宇宙冒険であるはずのヤマトの最大命題が家族っていうのがアレだけどね」
「でもしょうがない。地球を別とすれば古代が最後に助けるのも娘の美雪だし」
「いやまて。次は森雪を助けに行くだろ?」
「古代雪だ。奥さんだ。やっぱり家族だ」
「ぎゃふん」
オマケIII §
「しかし、ここまでフネに接近してしまった家族ものをシナリオとして書いてしまった宮崎駿。もう薄皮1枚でヤマトに隣接しちゃったよ」
「それで?」
「やっぱりここは宮崎ヤマトをやるべきじゃないかな。状況的に」
「どうして?」
「宮崎ワールドは既に完成した以上、すこし逸脱しても構わない。もう状況はそこまで来ている」
「確かにね」
「宮崎駿自身、意地を張るような年齢でもないし」
「確かに高齢だ」
「ヤマト側ももう西崎さんが存命ではない」
「受け入れ側にも柔軟性か。でもさ。原作に忠実なヤマトなんて、宮崎駿が作るわけないだろ?」
「それでいいんだ」
「どうして?」
「ヤマトには無数のヤマト解釈が既に存在する。イスカンダルで美しい女性が待っていなかったヤマトだってあるし、SPACE BATTLESHIP ヤマトで再生産された」
「それを考えれば、今更突飛なヤマトが1つ増えたぐらいでオタオタするなってことだね」
「そうだ。泥まみれのガミラスタイガー戦車がヤマトと戦っていても泣かない。それで十分」
