「結局、ジョブス問題はジョブスの問題ではないことが分かった」
「それはどういう意味だい?」
「ジョブスを褒め称える人たちの問題だ」
「何が違うの?」
「ジョブスは独創的だという。誰もやらないことをやる。成功したら追従者が出てくるが、表面だけ真似ても成功しない」
「まあそうだろうね。iPodとか一時代を築いたし。オーディオ業界の秩序が変わったし」
「でもさ。こちらから見ていると、彼のどこが独創的なのか説明してくれ、というところから始まる」
「えっ?」
「だからさ。ジョブスに先行して世の中にはいろいろあったわけだ。ジョブスに才能があるとすれば、その先行したいろいろなものを知らない人に向かって商品を売ったことだ」
「そうか。何か先進的で独創的なものを他人に先んじて手に入れたという優越感を売ったわけだね」
「おそらくそうだ。だから、ユーザー層はどうしてもある程度以上に広がらない。当たり前だ。そういうセグメントマーケティングをやったからだ」
「でも、その君のアイデアは正しいの?」
「ははは。その疑問は当たり前だ。こっちだって持っている。だからさ。『そうじゃない、実はこの部分が真に独創的で立派なのだ……』という説明があれば納得する」
「じゃあ、説明待ち?」
「うん。ずっと説明を待っているが、誰も納得の行く説明をしてくれない。というか、突っ込みどころだらけの穴だらけのジョブス賛美しか聞こえてこない。そんな賛美歌は耳タコさ」
「分かった。君の不満は、ジョブスの訃報を契機に耳タコの賛美歌がまた聞こえてきたことだろう」
「まあ、そういうことだ」
「それで君はどうするの?」
「またかよ、としか思わない。もちろん、死んだジョブスを貶めたいからではない。生きているジョブス信者の進歩の無さを嘆くだけだ」
「だからこれはジョブスの問題じゃ無いわけだね」
「ジョブスの死を悼む僕って先進的で分かっている……というファッションをまとってみても、そのファッションは最初から穴だらけで滑稽なんだろう。でも、本人は穴に気づかない。なぜって知らないから。たぶんな」
「それで?」
「ジョブスの評価を変える気は無いが、ジョブスの死を悼んだ人は……」
「人は?」
「言わぬが花だろう」