「というわけで、『蒼海の牙』の感想だ」
「架空戦記だろ? なぜACAHのカテゴリなんだ」
「ナガセの小説を書いてるらしいからだ」
「そっちの関係か」
「架空戦記は既に読まないしな」
轟天号! §
「一言で要約するとこの小説は何?」
「轟天号!」
「は?」
「海底軍艦轟天号轟天号、基地外艦長神宮司神宮司、空だって飛べるぞ轟天号轟天号、海底帝国やっつけろー♪」
「なんだその歌は」
「意味が分かる奴は全日本に数千人ぐらいいると思うが忘れろ」
「なんで?」
「忘れろ」
「はいはい」
「というわけで、轟天号である」
「轟天号って何?」
「海底軍艦という映画が昔あったのだ。一応押川春浪原作ということになっているが、中身は別物らしい」
「どっかのファントムみたいだね!」
「それ以来、轟天号ないし轟天と名の付くメカの出る特撮は多い。ゴジラのファイナルウォーズとかね」
「惑星大戦争とか」
「リボルバー式のカタパルトで飛んでいくのはサクラ大戦3だからまた別口だ」
「それで?」
「ズバリ、艦首がドリル。これが最大のチャームポイント」
「ドリルか!」
「ドリルは基本とかいう奴がいるけど、海底軍艦のドリルは基本中の基本。ゲッター2よりずっと早いのだからな」
「そうか。この『蒼海の牙』もドリルが付いた軍艦なんだね」
「そうだ」
「でも、ドリルって架空とはいえ歴史ものとしては不自然じゃない?」
「だからさ。歴史が改編されているんだ。火薬が量産できずに、ラム戦が主体になった架空の未来なんだ。だから、プリンス・オブ・ウェールズもシュペーも出てくるけど別物だ」
「ラム戦ってなんだっちゃ?」
「ハーロックに出てくるだろう。生意気な敵はラムでたたき割ってやるって」
「喩えが古いよ」
「ラムは、一時期本当に軍艦に装備されていたが、誤って味方を沈めてしまうことが多く、いつの間にか廃れた。しかし、ラム戦が主体なら、回転式のラムもありってことだ」
「へえ」
「だがしかし、それだけではない」
「は?」
「実はある重要な特徴が似ているのだ。読んでいる途中でのけぞった」
「それは何?」
「ネタバレになるから内緒だ」
「ケチ」
まとめ §
「じゃあ、まとめてくれ」
「基本的に作者はかなりの博識だが、文章はあまり慣れていない感じだ。どうしても、ざっくばらんな語りに流れがちで、そこは惜しい」
「読んでも面白くないってこと?」
「実は、途中から急に面白くなる。ドリルが付いた主役軍艦と、ドイツのポケット戦艦シュペーの一騎打ちだな」
「そうか」
「そういう意味で題材の選び方もいい。巨大戦艦とか、巨大空母とか、大艦隊とかはもう飽き飽きだ。しかし、むしろ小さなポケット戦艦クラスの軍艦のそれも1対1の闘いはかえって燃える」
「AC6は低性能機で飛んだ方が燃えるのと同じってことだね」
「まあな」
「じゃあ、この作者が書くナガセ小説の今後に期待していいわけ?」
「もしも、編集者として意見を付けるとしたら百箇所以上指摘を入れる場所があるが、最低限のどうしても外せない部分だけはきちんと踏まえているからいいんじゃないか?」
「そんな甘い評価でいいの?」
「ナガセの小説は比較にならないほど良くなってるよ」