これは面白い!
入手編で、「火星の大統領カーター」の名前を出したのは間違いでした。
これは、そういうものではなく、「火星人類の逆襲」に連なる良質な歴史的な小説を題材にした小説と見て良いと思います。
後書きに出てくる「風と共に去るぜよ」もなぜか読んでいますが、印象的には「風と共に去るぜよ」よりも、「火星人類の逆襲」に近い印象を受けます。
これはかなり意外な嬉しさです。そもそも、この本を見つけたことがそもそも意外なのですが。それに加えて意外であったと言うことです。
「火星人類の逆襲」につらなる横田順弥の一連の明治小説はとても面白く意義深いと思いますが、一般の読者には対応できない領域にあるようで、今ひとつ売れていないようです。
そんな状況で、他の作家が、この路線を継承することなど現実的にあり得ないと思っていましたが。
意図してではないと思いますが、吉岡平のような人気作家が、ソノラマ文庫のようなメジャーなティーン向け文庫で、まさかこんな作品を送り出してくるとは。実に嬉しい意外さです。
(もっとも、ソノラマ文庫と言えば、「さつき3号、浮上せず」のようなとんでもない歴史快作も刊行したりする側面もあるので、本来はまったく意外ではなかったはずだとも言えますが。ちなみに、「さつき3号、浮上せず」は本当に偶然に読んだものなので、他にも凄い作品が隠れている可能性はあります)
ノスタルジックな感想 §
ノスタルジックな感想は横に置くとします。
もちろん、創元推理文庫版の火星シリーズも、ジュブナイル版も読んでいますが、遠い過去の話なので、ほとんど全て忘れてますので。それでも、この雰囲気は、絶対に間違いなく、あの世界だという感想を持つことができました。
作品構成上のトピック §
後書きで作者が、長くなってしまった、と書いていますが。それでも、この作品は、今時の標準からすれば短いと思います。
実際、本来なら見せ場になるはずの戦いのシーンがあっさりと飛ばされている場所も多く、今時の普通の書き方なら最低3巻になるだけのボリュームがあると思います。
しかし、長ければ良いというものではありません。
本質だけに絞り込んだ短い小説は、長いだけの小説よりも価値があると思います。
そういう意味で、あれよあれよという間に、次々とピンチが訪れ、それを切り抜けていくこの小説は、とても価値があると思いました。そして、そういうリズム感は、あの当時の小説のリズム感でもあると思います。それはノスタルジックであると同時に、新鮮でもあります。
2004年5月29日22時頃追記 §
感想を書き終わった後、この本は本棚にちゃんと入れておこうと思いました。
たいていの本は、そのまま、あとで処分する本の山に積まれますが、別格として扱われたと言うことです。
そうして本棚を見ると、買ったは良いがまったく読まずに放置され、しかも1冊欠けている火星シリーズの合本が……。
この隣に入れるしかない。と言うわけで、入れてみました。