2004年12月13日
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ユリイカ 12月号 特集 宮崎駿とスタジオジブリ 「天空の城ラピュタ」から「ハウルの動く城」まで

Written By: 川俣 晶連絡先

 全ての記事を読んではいません。

 主に、特集を読みました。

 しかし、いろいろな意見の持ち主が書いていますね。

 その中で、特に印象深いのは、私が現在の最重要の思想書として扱っている「文脈病」を引用してきた記事があったり、その著者の斉藤環氏が「ラカン派」を自称する元となるラカンそしてジジェクの名前が出てくる記事もあることです。

 「文脈病」を引用してきた記事は、ちょっと突っ込みの甘さを感じますが、ラカン、ジジェクの名前を出してきた方の記事は「分からないがきちんと前向きに意味を把握したい」という気持ちになりました。

的確な視線の存在 §

 ハウルの動く城という映画に対する的確な視線の存在を教えてくれたことも、本書の価値だと思います。

 たとえば、こういうところです。

小谷真理さんの記事 70pより (ハウル映画版に関して)

 そう考えていくと、ソフィーに掛けられた呪いがなぜ消えてしまったのか、いかにそれがロジカルにヴィジュアル化されていたのかが、理解されるだろう。このアニメ版は、原作への誠実な熟読によって成立している。

 これは、「ハウル」に対する「宮崎アニメの集大成」であるとか、「矛盾だらけ」という意見に全く逆行するものと言えます。実際、「ハウル」は驚くほど原作に忠実な面を持っていると同時に、作品内の論理に対して極めて忠実に展開するドラマであると感じます。前者は、要するにいかに作品に対して距離を取って誠実に見るかの問題と言えます。距離を取らず、過去の宮崎作品の連想に身を委ねれば、連想によって頭が満たされて、過去の作品との差異を意識する余裕が消失する恐れがあります。しかし後者は、ただ見るだけでは解決できない側面があります。というのは、原作が持つ、「主人公ソフィーが見ているものしか描写されない」という特徴が映画「ハウル」にも忠実に受け継がれているためです。それどころか、原作にあるいくつかの明示的な言葉による説明が映画にはないために、言葉によって理解しようとする試みは自動的に失敗します。(アニメーションは絵の動きであるということから行けば、言葉で説明しようとしないのはアニメーション的誠実さであると考えることができます)

誰のための映画か §

 大塚ギチ氏が以下のように書いています。

p99 大塚ギチ

(イノセンス、スチームボーイ、ハウルの動く城に関して)

そこがずれた場合は最悪、送り手の気分だけが一方的に投げつけられるだけの作品に映ってしまう

 これはオタクが受け手だという前提に立って書かれた文章ですが、仮に受け手をオタクだと仮定すると、「一方的に投げつけられるだけ」という印象は正しいでしょう。

 しかし、スチームボーイは見ていないので分かりませんが、他の2作に関しては、そもそもオタクを受け手だとは思っていないと思われます。彼らが想定する受け手はもっと別の人種であり、それらの人種に対する極めて誠実でコミュニカティブな態度が見られると思います。

 この世界には、オタクとそもそも存在するかどうかも定かではない曖昧な一般人しかいない、という旧世代の発想が極めて物足りないと感じます。

プロデューサの正体 §

 氷川竜介さんの「プロデューサの正体」という記事は凄く良かったですね。

 取り上げられにくいプロデューサというものに焦点を当てたのは極めて価値ある態度だと思います。しかも内容も面白いです。

「千と千尋」はソープランドの映画か §

 「千と千尋」はソープランドの映画だと発言するためだけに存在しているかのように存在している記事。これは品が無く、全く不用です。それに、この映画の中に風俗的な匂いをかぎ取ったとしても、ただソープランドという言葉で規定してしまえば、そこに収まりきらない多くのニュアンスがこぼれおちてしまいます。この問題を論じるには、もっと別の適切な語彙体系があるはずです。

以下略 §

 他にも、あまりに「なぜ?」という変な文章が見られ、突っ込む価値があるものもありますが、時間が無いので以下略です。

 ただ、明らかで変であったり、間違っていたりする記事を排斥せよ、という意図はないことは付け加えておきます。何が正しいのか確実なことは誰にも分からないし、たとえ結論が間違っていても、そこから何かを触発されることもあり得るでしょう。

 でも、品がない記事は止めるべきだと思います。(品がないとはどういうことか、というテーマだけで下手をすると本1冊分ぐらいの文章になりかねませんが)

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参照情報: 感想文「ユリイカ 12月号 特集 宮崎駿とスタジオジブリ 「天空の城ラピュタ」から「ハウルの動く城」まで」
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