2006年11月16日
川俣晶の縁側無意味監獄total 3265 count

「敗北自己規定者」の切実なるニーズは、明らかに実行できない主張を流布させるか?

Written By: 川俣 晶連絡先

 檜山正幸のキマイラ飼育記の、詐欺師・江本勝さんの言うことを信じないでくださいにて、私の書いたものに絡んでIT業界に詐欺(?)について少し言及されました。

 それと少し関係するけれど、本筋では違う話があります。(そう、別の話です! これは強調しておきます!)

 良い機会なので、現在の仮説を書いておきます。

 念のために付け加えるなら、これはアイデアであって、これが確定した事実であると主張するわけではなく、読者も間違っていると思って読むのが適切な態度でしょう。

 (これも強調しておきましょう。ここに書かれた内容を信じてはいけまぜん!!)

何について書くのか? §

 IT業界において、明らかに実行できない、あるいは実行できない疑いが濃厚な主張が、あたかも確定した事実であるかのように流布される事例が多いと思われる。

 ここでは「敗北自己規定者」と名付けた類型が存在すると仮定する。そして、「敗北自己規定者」のニーズを満たすという理由により、そのような主張があたかも事実であるかのように流布するというアイデアを語る。

用語定義: 先行者、追従者、敗北自己規定者 §

 IT業界とはコンピュータ出現前には存在しなかったものであり、比較的近い過去にコンピュータの普及に伴って出現したものである。

 従って、これに関わる者達は以下の2種類に分類できる。

  • 自力で開拓しつつコンピュータを使わねばならなかった者達
  • 既に開拓された安定した利用スタイルが提供された者達

 この分類は、厳密に分ける基準を持たない。これは、同じ状況に置かれた者が、既に開拓済みの領域で満足する場合と、未開拓の分野に目を向けて開拓していく場合があり得るためである。そのため、この分類は主に当事者の心理的スタンスによる分類と見ることが出来る。

 ここはで、前者を「先行者」、後者を「追従者」と呼ぶ。

相対性についての注意 §

 ちなみに、外部から見た「先行者」「追従者」は相対的な概念である。ベテランから見た「追従者」が、ビギナーからは「先行者」に見える場合があり得る。それらは、本人が自分で自分をどちらに分類するか……、とは別の問題である。

先行者と追従者の格差 §

 「先行者」と「追従者」は歴然とした格差を持つ。

 なぜなら「先行者」とは秩序を打ち立てる者であり、「追従者」は秩序に従うものだからである。

 また、「先行者」の経験と知識は常に「追従者」に対して優越する。たとえば、「追従者」が素晴らしいアイデアを思いついても、たいていの場合「先行者」の誰かがとっくに思いついていて、それが有効ではない理由も明らかになっている。

 従って、「追従者」は「先行者」に対して大幅に劣位であるという印象が与えられる。

さほど大きくはない実際の格差 §

 「先行者」と「追従者」の格差とは、実はそれほど大きなものではない。事実として、パソコンを始めた時期が10年以上違っていても、対等に議論できるケースは珍しくない。要するに、知識と経験に対して支払った手間数さえ対等であれば、両者の格差は無いに等しい。そして、たいていの場合「先行者」は怠けているので (汗)、「追従者」は手間さえ惜しまなければ、格差を埋めることは難しくはない。

 しかし、表面的な印象から、実態以上に大きな格差が存在するかのように見えるケースが多いと考えられる。

「追従者」の取る態度のバリエーション §

 ここで、「追従者」の取る態度は3つのパターンに分類できる。

  • 「追従者」としての格下の立場を甘受する (単にコンピュータを便利な道具として使うだけなら、もっとも合理的な態度)
  • 「先行者」との格差を埋めるために努力する
  • どちらの選択肢も望まず、第3の選択肢が存在するはずだと信じる

 通常、「追従者」の取るべき態度は1番目と2番目のいずれかとなる。(あるいは、そもそもコンピュータに関わることをやめるという選択肢もある)

 しかし、それなりのプライド意識があれば格下には立ちたくはないし、かといって格差が努力によって埋められないほど大きいものであると認識されてしまった場合は、努力という選択肢は否定される。どうしても「第3の選択肢」を求めざるを得ない。

 この状況において、「第3の選択肢」とは既に選択肢ではなく、それ無くしては当人が存続し得ない切実な要求となる。

用語定義: 敗北自己規定者 §

 もちろん、このような認識は誤っている。たかが道具に過ぎないコンピュータの利用技術にプライド意識など持つことは、本末転倒そのものである。また、努力を払わずに何かの成果を求める態度は常識的に不適切である。「努力したのに格差が埋まらなかった」というケースでは努力の絶対量が足りないか、あるいは努力のやり方が間違っていただけだと思われる。事実として、努力のやり方が間違った人を見るのは珍しくない。基礎をきちんと学ばず断片的な知識だけ集めて、それで世の中は認めてくれないと嘆くタイプは珍しくもない。

 さて、この「第3の選択肢」を求める者を特徴づけるのは、「敗北」の「自己規定」であると言える。実際には「敗北」していない、あるいは未だ勝敗を決せられる段階まで進んでいないにも関わらず、自分が敗北した、あるいは敗北しそうであると自己規定してしまった……ということである。

 ここで、このタイプの者を敗北を自己によって規定する者という意味で、「敗北自己規定者」と呼ぶことにしよう。

「敗北自己規定者」のニーズ §

 「敗北自己規定者」持つ「それ無くしては当人が存続し得ない切実な要求」とは具体的に何か。

 それは、以下の条件を満たす技術や思想でなければならない。

  • 先行者と同等の立場ではなく、優位に立てる (プライドの問題)
  • 泥臭い努力は不要 (努力の問題)

 しかし、そのような都合の良いものがあれば、とっくに誰かが見つけて実践しているであろう……というのが「先行者」から見た率直な感想である。

 従って、「敗北自己規定者」のニーズを満たすものは、実践できないフィクションとしての技術や思想とならざるを得ない。

 つまり、正当性を主張するために「やってみせる」ということができないことを意味する。(短期的に「やってみせた」と装うことはできるが、長続きはしない)

 従って、実践できないものをアピールするためには、権威を持ち出すしかない。そこで、条件には以下の1項目を付け加えることが妥当であろう。

  • 権威ある他者からのお墨付き (他者からの認定)

「敗北自己規定者」のニーズを満たす者 §

 「敗北自己規定者」は、実際にはあり得ない商品を売り込もうとする詐欺的なビジネスと極めて相性が良い。

 なぜなら、どちらも「先行者」の優位性を全て無意味化するほど優れた新技術というフィクションを扱うためである。

 そこで、「敗北自己規定者」は詐欺的ビジネスこそが真に優れた正しい事実であり、「先行者」は自己利益のために進歩を阻む悪であると社会正義を語ることが可能になる。それは、彼らのプライドを満たすために必須のものであり、詐欺的であるか否かは問題にされない。たとえ詐欺の疑いどころか、100%の詐欺そのものであっても、彼らはそれを必須とするニーズを持っているのである。そして、それは常に正しい真実として語られる。

 それゆえに、詐欺的なビジネスを行う者は「敗北自己規定者」のニーズを満たす唯一の存在であると言える。

 これは、そのようなビジネスを行う者から見れば、願ってもない援軍となる。何しろ、無償で動員できる大規模宣伝部隊を得たようなものである。それゆえに、「敗北自己規定者」は優遇され、ますます「高いプライド」と「努力に対する熱意の欠如」が強化される。

「敗北自己規定者」はなぜ勝利するか? §

 「敗北自己規定者」の主張は、努力抜きに高いプライドを得る手段そのものである。

 そして、それは後からIT業界に入ってくる者に対しては、極めて甘美な響きを持つ。まわり全部が、自分よりも多くの知識や経験を持っている状況で、それらを無視して優位に立てるという誘惑だからである。

 従って、IT業界の規模が右肩上がりに成長する限り、「敗北自己規定者」は常に新しい大量の援軍を得ることになる。それゆえに、「敗北自己規定者」は常に多数派の(……であるかのように見える)言説を構成し、先行者を抑圧して勝者となることができる。

「敗北自己規定者」はなぜ敗北するか? §

 パソコンが世の中に一通り浸透し、ニーズの拡大も一巡すると、IT業界の右肩上がりの成長は一段落する。

 このような状況に陥ると、「敗北自己規定者」は援軍の大規模獲得ができなくなる。

 また、「敗北自己規定者」の主張はフィクションであるため、実践段階で上手く実行できないという問題が生じ、徐々に周囲から冷めた視線を向けられるようになる。

 もう1つ重要な変化が現れる。

 この段階において、新規にIT業界に入ってくる「追従者」からすれば、彼らにとっての「先行者」とは「敗北自己規定者」そのものであるという逆転の構造が出現するのである。「敗北自己規定者」は、プライドは高いが努力が足りない者達であるため、あたかも僅かな努力で乗り越えられるかのような認識を与える可能性がある。

 従って、「追従者」の取る態度のバリエーションのうち、『「先行者」との格差を埋めるために努力する』という選択肢の有効性が回復する。このような選択肢を選んだ者達は、もちろん「敗北自己規定者」にはならない。

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