「すげえぜ」
「何が?」
「オラ、ワクワクしてきたぞ」
「小学館文庫のヤマトを手に入れたの?」
「うん。注文した翌日に電話があった。本屋も仕事が速いぜ」
「チェーン店に在庫があれば早いんだっけ?」
「そうだ」
「それで何が凄いの?」
「まだ読んだのは77ページまでだけどさ。ヤマトの軸線だよ!」
「は?」
「ヤマトが発進するとき、ガミラスのミサイルが襲う。これは原作通り。ここはいいかな?」
「うん。劇場版は宇宙空母抜きだから最初にミサイルだね」
「そうだ。だから忠実にミサイルが飛んでくる」
「うん」
「そこでヤマトは迎撃する。しかし、原作と違ってなんと波動砲で迎え撃つ」
「それで?」
「だから軸線だよ。ヤマトの軸線に乗るんだよ。ちゃんと軸線に乗ったという台詞があるんだよ」
「え? まさか……。ショックカノンを撃たないで波動砲を撃つことで、まさにヤマトの軸線に乗せたってことか?」
「そうだ。つまりだな。軸線という台詞を活かすために使用武器を変更しているわけだ」
「そりゃすごいね」
「こんなにワクワクできるとは思ってなかったぞ」
「それだけ?」
「いやいや。まず、冥王星海戦が火星で行われたことになっている」
「遠くまで地球艦隊が行ける不自然さが緩和されているね」
「しかも、そのときに使用される武器はショックカノンで、戦闘機隊もいてブラックタイガーなんだ」
「そうか。地球製の武器なのにいきなりヤマトで初めて出てくる不自然さが緩和されるね」
「しかも地球最後の艦隊は巡洋艦が基幹で戦艦はいない」
「いかにも劣勢の弱体艦隊だね」
「まがりなりにも戦艦のヤマトで盛り返す伏線だ」
「なるほど」
「更にもう1つ。佐渡先生(女)がね。古代がヤマトに乗り組むときにちょっと沖田艦長に気がある風なことを言うんだよ」
「それは君が指摘した、沖田艦長と佐渡先生(女)のラブロマンスの可能性そのもじゃないか」
「ははは。恐れ入ったぜ。まさか2010年にヤマトの小説の新刊が出て、しかも思わずマニアックさに驚愕することがあるとは」
まだある §
「まだまだあるぞ」
「ええ? まだあるの?」
「サーシャは出てこないが、小型宇宙船が墜落した半径数百メートルの放射能が消える」
「えっ?」
「放射能除去装置はサーシャが持ってくればいいという話が見事にクリアされている。サーシャは出てこないが、放射能を除去する機能は地球に持ち込まれている。ただし、宇宙船も小型で放射能が消える範囲が小さい。地球全体を救える装置は取りに行く必要がある。そういうことなんだ」
更に気付いた §
「今になって気付いた」
「何を?」
「沖田艦は『えいゆう』となっているが、それに小型機が着艦する」
「古代と島の機体?」
「いいや。設定が変更されて古代は地球でジャンクあさりをしているのだ」
「沖田艦に拾って貰うのは無理だね」
「だからさ。冥王星海戦に相当する戦いにブラックタイガーの雪がいるんだよ。古代と島の探索艇の代わりに雪のブラックタイガーが着艦して地球に帰るんだ」
「なるほど。設定を変更しても小型機を収容するシーンは逃さないわけだね」
「それも火星で収容するのだ。戦いが火星だからね」
「なるほど」
「しかも、 実は地球でカプセルを拾った古代は、沖田艦に拾われるのだ」
「なんだって!?」
「つまりさ。設定変更で実行不能になった展開は、別の形で極力再現しようとしている工夫が見られるのだよ」