組み合わせの創作法 §
「ネギま!」の作品骨格レベルの驚異的な質の高さはどこから来るのだろうか。ここでいう質の高さとは、維持される斬新さと緊張感と深い味わいを意味する。
その秘密は、このインタビュー内に見いだせた。
それは以下の部分にある。
さすがに31人は大変でしたね。まず我々で巫女さんだとか、メイド、寡黙、色黒とかキャラクターの要素のカードを用意して、それをダッと混ぜる。そうすると寡黙で色黒で巫女でスナイパー、とかわけのわからないヤツが出てくる(笑)。最初は「なんだ、これは」と思うんですけど、だんだん我々も描いているうちに愛着が出てくるんです。
ここで述べられているのは、カードを使った偶然に依存するキャラクターメイキングである。
これを読んだ瞬間に、「ああ、そうか!」と理解できた。
本質的に最も重要な部分を、この作品はクリアしていると言うことが分かったのである。
それはいったい何か。
それを説明するためには、狭義のクリエイターとは何かを説明しなければならない。
狭義のクリエイターとは、文字通り、全く斬新なものを無から生み出す者である。少なくとも、それを追い求める者である。
本質的に作家とは狭義のクリエイターでなければならない、と私は思う。全く個人的な思いでしかないが。ゆえに、遠野秋彦は、狭義のクリエイターたらんとしている。少なくとも、そうなりたいと願っている。
さて、問題はどうすれば狭義のクリエイターになれるかである。
答えは簡単。
全く斬新なものを無から生み出せば良いのである。少なくともそれを希求すれば良いのである。
しかし、どうやって?
これは素人が思う以上に難しいのである。
なぜかといえば、頭の中から取り出したイマジネーションは、たいていの場合、どこかで見た何かが変形されたものに過ぎないためである。既製品の亜流に過ぎない。
事実は小説より奇なりというが、人間の考えたことなど、現実よりも常に矮小になる。つまり、斬新さが劣る。
もちろん、世の中には、自分の頭の中から取りだしたイマジネーションで高い評価を受けるアーティストが存在する。そのような方法で成功することは不可能ではない。しかし、ここで重要なことは、彼は狭義のクリエイトを行っていないと言うことである。彼は自分の中からイマジネーションを取りだしただけで、新しい何かを無から生み出したわけではない。
つまり、狭義のクリエイターとアーティストは全く異なる概念である、ということを強調しておこう。
では、狭義のクリエイターたらんとする者がすべきことはいったい何だろうか。
答えは簡単である。
自分の頭の中から全てを取り出そうとしてはならない。
そのかわり、自らの主観の関与を徹底的に減らした手続きを持つ必要がある。
カードを使ったキャラクターメイキングは、まさにそれに該当する。それによって、本人も驚くようなキャラクターが生まれるが、それが斬新さと緊張感を維持する。そして、未知なるものに向かい合うことにより、知っているものに対するよりもより深く相手に入り込み、それが深い味わいをもたらすのである。
このような創作法は、何ら驚くべきものではない。大塚英志氏の著書にもカードを使った小説トレーニングの方法は出てくるし、実はこの私自身もこれに類する別の創作法を使っている。具体的には、2004年03月18日に駄洒落から始まる洒落た創作法という文章を書いて説明している。駄洒落とは、本来は関係のない2つの言葉を、音が似ているというだけの理由で結びつける行為である。本来は関係ない2つの間に、関係を設定していくプロセスは、まさに狭義のクリエイトである。
たとえば、チャーリーがチャリでやって来る、目覚ましい目覚ましメザシの冒険、リスとイギリス、はだかの坊さまなどが、この方法により創作されているが、いずれも取り組む前には全く予測することすらできないほど斬新で奥深い内容になっていると思う。もちろん、それが本当に斬新であるかは批評の余地はあるだろうが、少なくとも作者個人の頭の中から全てを取り出すケースと比較して、遥に優れた作品になっていることは間違いないと考える。
このような実績があれば、赤松健の用いたカードによるキャラクターメイキングが、いかに正しいツボを突いているかが理解できる。彼は本物であり、そのような方法で生み出された「ネギま!」が、極めて刺激的であるのは当然の成り行きと言える。
目次 §
注: 赤松健とクリエイション論には問題提起から結論に至る文脈、コンテキストがあります。つまり、それまでに行われた説明について読者は分かっているという前提で文章が組み立てられています。そのため、第1回から順を追って読まない場合、内容が理解できないか、場合によっては誤解を招く可能性があります。
表紙
赤松健とクリエイション論 第1回 「問題提起・なぜ舞-HiMEはネギま!を恐れるのか」
赤松健とクリエイション論 第2回 「第3の登場人物『宮崎駿』」
赤松健とクリエイション論 第3回 「重要な手がかりとなる赤松健インタビュー」
赤松健とクリエイション論 第4回 「組み合わせの創作法」
赤松健とクリエイション論 第5回 「新しいことにチャレンジする」
赤松健とクリエイション論 第6回 「つらいことが起こらないドラマ」
赤松健とクリエイション論 第7回 「ずば抜けた成功者の条件とは」
赤松健とクリエイション論 第8回 「『舞-HiME』は成功者の条件を満たすか?」
赤松健とクリエイション論 最終回 「将来について」