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2008年08月15日
川俣晶の縁側歴史と文化下高井戸周辺史雑記total 4526 count

下高井戸と世田谷・異質なる暗渠文化 第3回 『消失する過去』

Written By: 川俣 晶連絡先

 北沢川支流で、最長のコンクリート板暗渠区間はどこでしょうか。北沢川支流の全貌を把握していない私には答えられません。しかし、「北沢川支流で、一番長いドブ板区間は、桜上水支流の日大100周年記念館前か!?」で出た「日大文理学部百周年記念館前」(以下の地図で青ライン)よりも長い区間を確認しました。それは「赤堤通りと荒玉水道間」(以下の地図で赤ライン)にあります。


大きな地図で見る

新旧入り乱れる板 §

 さて、この赤ラインの区間は第1回で紹介した「経堂小学校東・北側の事例」の上流部に当たります。

 これを撮影した一昨日は、上流部へと辿りながら赤堤通りから赤いラインに入る場所に到達したわけです。

 そこでコンクリート板暗渠を発見してじっくり観察した私は驚愕すべき事実に遭遇したのです。

 まず、明らかに製造時期が違う板が混在しています。それどころか、よく見ると鉄板(?)らしき板まで混ざっています。

製造時期が違う板? §

 写真では分かりにくいですが、実物は色だけでなく質感も違います。

新旧の板が混在

1枚だけ鉄板(?) §

鉄板まで使われている

 これを見た瞬間に、以下のような状況が容易に想像できました。

  • このコンクリート板暗渠は、丁寧に補修されながら長期間使用されていて、おそらくこの先も使い続けることになるのだろう

 これは、以下のように言い直せます。

  • このコンクリート板暗渠は、各時代ごとに必要とされるあらゆる補修を受けているため、現在の姿は暗渠作成時点から現在までの全ての工程が累積された姿である

 このような認識は、私の持つ水路趣味のある側面に対して、致命傷となりました。

 補修されているとなぜ致命傷になるのでしょうか?

 ここからは、私の水路趣味についての話に進みます。

水路趣味の3つの側面 §

 私の水路趣味には3つの側面があります。

  • あり得ない意外性
  • 過去
  • 歴史

 以下、これを説明します。

あり得ない意外性 §

 「あり得ない意外性」とは、社会常識的にあり得ない場所が水路関係の場所に発見できることを意味します。たとえば、地価の高い市街地の中に、これといって何の用途もなく草が茂るまま放置されている土地があったりします。以下の航空写真のポイントした箇所は、左の半円形の施設の庭というわけではなく、右下の方から続いている水路跡と推定される道路の延長線上にあります。

 以下は前回の最後に付けた家1軒ずつ挟んで3本の道が並行している箇所です。これも常識で考えると「あっ」と驚く道路配置です。

 水路跡を探索するということは、この種の「あり得ない意外性」に比較的高頻度で遭遇できることを意味し、その点で刺激的な楽しみだと言えます。

過去 §

 過去と歴史は同じように見えるかもしれませんが、これは明確に区別されるものです。具体的に言えば、「過去」とは「私の実体験」に立脚する直接表現の「昔のこと」であり、「歴史」とは「史料」に立脚する間接表現の「昔のこと」を意味します。(史料という言葉の意味については「歴史ビギナー向け「史料」入門・「僕の見つけた過去の真実」が相手にされないのはなぜ?」を参照してください)

 さて、私が水路関係に見る「過去」とは、具体的に以下の3点です。

  • 生まれ育った家(現存せず)は道1本を隔てて玉川上水に隣接していたが、間一髪の差で生まれるのが遅すぎ、水が流れている状態を見たことがない。しかし、玉川上水第3公園に姿を変えるところは見た
  • 下高井戸にはドブ板と呼ばれる裏道があったが、あまり利用されていなかった。しかし、なぜそこにあるのか、ドブ板の正体は今ひとつ良く分からなかった。
  • 子供の頃、神田川を除く「川」という存在に無縁だった (下高井戸には無かった)。小川や橋という存在に憧れていたとも言える

 最初の1つは、玉川上水史をひもといていくという形で結実していきますが、それは実質的にこの後で述べる「歴史」に足を踏み入れることを意味します。

 残りの2つは、1つの状況の帰結であることが分かりました。本来下高井戸には多数の水路があり、小川も存在していました。しかし、生活排水で汚れ、ドブ板に姿を変えたことが分かってきました。

 つまり、ドブ板とは、水路、小川がそこにあったことと、それが汚れてしまったことの象徴的な存在と言えます。

 であるから、自分が見た過去のドブ板を解釈するためには、残された暗渠に注目していくしかありません。そこに残された過去の痕跡を「史料」としてすくい上げ、それによって子供の頃見て解釈できなかった光景に解釈を与えるしかありません。

 そして、当時とほとんど姿を変えないまま現在に残るドブ板は、そのための大変に貴重な史料となります。メンテナンスや補修は受けている可能性がありますが、基本的な構造、構成は変化していないと考えられます。それには強い興味を感じるのです。

歴史 §

 下高井戸周辺史としての歴史についての興味は、おおむね中世から昭和40年代ぐらいまでの範囲となります。たとえば、甲州街道や玉川上水のありかたに興味もあれば、それらができる前の状況にも興味があります。下高井戸と直接関係はありませんが、世田谷城やその支城にも興味があります。また、京王線等の鉄道史にも興味があります。

 それはそれとして、歴史に関しては特に「水」へのこだわりは強いものがあります。これは、網野義彦さんの本を読んで、道路中心主義は為政者の理想であって、実際は海の道が盛んに使われていたという話を読んで、ポロッと目から鱗が落ちて以来です。そして、内陸であっても水路網は道路網や鉄道網と並んで重要な網であると認識してから、特に重点的に見るようにしています。

 ですから、私の興味は常に道路よりも水路に向かいます。

消失する「過去」 §

 さて、話を最初に戻しましょう。

 私の水路趣味にある3つの側面「あり得ない意外性」「過去」「歴史」のうち以下のような特徴は「過去」という要素と決定的に相容れません。「過去」趣味がコンクリート板暗渠を必要とする理由は、それが切り取られて残存する昔の姿であるからです。しかし、以下の姿は「過去の姿」ではありません。

  • このコンクリート板暗渠は、各時代ごとに必要とされるあらゆる補修を受けているため、現在の姿は暗渠作成時点から現在までの全ての工程が累積された姿である

 逆に言えば、世田谷における水路趣味に「過去」という要素はあり得ないことになります。つまり、そのような側面を楽しむという発想そのものが生まれない可能性があります。

 しかし、世田谷の水路趣味はつまらないわけではありません。むしろ、もっと面白いとすら言えます。なぜかといえば、現在進行形で常に必要に応じて姿を変えているため、ウォッチングしていて面白いと思われるからです。(事実、私も歴然とした変化を目の前にして面白いと思った)

 それと比べると、下高井戸の水路趣味は面白くありません。変化がないからです。外部からやってきた者は、一度見たらそれっきりでしょう。私は、昭和40年代に自分の目で見た過去の姿と対比することでドラマチックな変化を感じていますが、過去の姿を見ていない者に感じられる変化ではありません。

今回のまとめ §

  • 下高井戸の水路と水路跡は、既に変化がほどんと無い
  • 変化がないので、外部から来た者には面白くないだろう
  • それと比較して世田谷の水路は変化に富み、面白い
  • 変化がないことにより、切り取られた過去の断片として歴史の史料たりうる可能性を有する
  • しかし、その可能性は「変化する地域」の者には容易に想像しがたい
  • 変化に富む世田谷の水路は、その点で史料たりえない (水路を解釈するには、水路が持つ歴史的経緯を常に参照し、どの時代にどのような姿であったかを確定させねば確実なことは言えない)

 つまり以下のように要約できます。

  • 下高井戸→史料になる「かもしれない」が、面白くはない
  • 世田谷→それ単体では史料としての価値は低いが、とても面白い

メモ §

 今日は永福町や浜田山まで足を伸ばして暗渠らしい箇所をチェックしました。浜田山では、ほぼ確実に暗渠だろうという道を歩きましたが、過去に述べた下高井戸の水路跡の特徴を全て満たしていました。永福町の方では、確実に「これだ」という箇所には遭遇できませんでした。しかし、どうも「暗渠の埋め戻し→一般道路の設置」という作業が進んでいるのではないか、という漠然とした印象を受けました。単なる根拠のない印象に過ぎませんが。

 それはともかく、暗渠探索も世田谷方面よりも、神田川以北に足を運ばねばダメだと痛感しました。何せ、「世田谷の川 探検隊」の杉並版サイトは無いのです。(もしあったら教えて欲しい)。だから、知るためには自分で探索していくしかありません。そして、こちらにも、いくつか気になることがありました。

感想 §

 加瀬竜哉.com no river, no lifeというサイトがあります。このサイトが水路跡に向ける視線は、私とかなり似通っています。同じ1964年生まれのオリンピック・ベイビーであり、オリンピック前後の激変で隠蔽されてしまった昔を、暗渠を通じて見ていこうとする姿勢も似通っています。

 ところが、このサイトは世田谷方面にも行くという意向が書かれているにも関わらず、2008/01/01の第五章・桃園川のあと、更新が止まっています。

 もしや、私と同じ理由、つまり世田谷の暗渠は「過去」という側面を切り開いていく史料には向かないために、暗礁に乗り上げてしまったという可能性はあり得るでしょうか?

2008/08/17追記。名前もメールアドレスも示さない人から「加瀬竜哉 現在ソロアルバム制作中です。」とだけ書かれたメッセージが送られてきましたが、これだけでは意味のある情報になっていません。ソロアルバム制作中だから暗渠を見に行けないと言っているようにも読めますが、その解釈で正しいのかも明確ではありません。また、そのような状況が何らかの根拠により客観的事実として第3者を納得させることができるのか、それとも単なる書いた人の推定に過ぎないのかも分かりません。メールアドレスが無いので問い合わせることもできないし、名前もないからどの程度信頼を置ける人からの情報であるかも分かりません。まず、自分は何者かを示し、どのような根拠によって、具体的に何を主張するのかを、見ず知らずの他人にも分かるように書かねばなりません。

次回予告 §

 次回で最終回です。

 これまでの内容を総まとめします。

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