新現実 v.3
紀伊國屋書店

2004年06月08日
川俣晶の縁側辛口甘口雑記total 4605 count

「あえて」が通じない問題とは何か

Written By: 川俣 晶連絡先

 「あえて」が通じない問題について、インターネット知の欠陥というアイデアに関するメモ Version2という文書に補足的に書き足しました。

 しかし、これは単独で参照されうる話題なので、参照しやすいように独立したコンテンツにまとめ直しておきます。

出典について §

 出典は、大塚英志さん編集の「新現実Vol.3」という思想ムックにあります。

 ページ下部のアマゾンの情報を見ると、いかにもロリコン漫画雑誌であるかのような表紙が見えて「えっ!?」と思う人も多いかもしれませんが、れっきとした思想ムックです。内容は非常に硬派なものです。このような表紙が付いているのは、一部で過熱するリカヴィネなどのブームの発信源とも言えるアーティストを表紙に据えることで、これも現在の現実であると読者に対して挑発的に突き付けることにあるのだろうと思います。

 この中で、大塚英志さんと宮台慎司さんの対談記事中に、以下のような大塚英志さんの発言があります。

p11より

この「あえて」が不成立なことがぼくには問題のような気がする。東浩紀と宮台さんのネット対談で、「あえて」という言葉に対して東浩紀が無反応だった。

(中略)

世代論にはしたくないんだけども、東君なあるいは若い学者に触れていると、彼らの言語体系というか言語感が、一種のプログラム言語としてあるんじゃないかという気がするんです。

  つまり論理的な整合性、プログラムとしての単一性の中に彼らの言葉はある。だから「あえて何々をする」という逆説が伝わりにくい。

 この部分が非常に印象深いために、「あえて」が通じない問題のように呼んで、時々使っています。

「あえて」が通じないとはどういうことか? §

 「あえて」というのは、「(しなくてもよいことを)強いてするさま」(三省堂 『大辞林』より)だそうです。たぶん、あえて、と断って何かを行うと言うことは、それが不適切あると言うことを承知した上で行うということで、その行いが不適切であると意見することは無意味でしょう。これを理解するには、通常のコンテキスト(文脈)とは別に、不適切であることを承知しているコンテキストがあることを把握しなければなりません。

 (以下は、インターネット知の欠陥というアイデアに関するメモ Version2とは少し論旨の展開が違います。向こうの文書はより厳密であろうとする解釈の試みであり、こちらの文書はより納得しやすいであろう説明を試みています。

 そこで問題になるのが、コンテキストの希薄化という問題です。

 本を読む場合は、最初のページから最後のページまで続くコンテキストが存在します。たとえば、第3章を理解するためには第1章で説明された知識が必要である、といった状況はよく見かけます。そのため、部分的な拾い読みは成功する場合もありますが、常に可能というわけではありません。一般論として、本には、コンテキストがあるということを把握しなければ、本は読みこなせません。

 一方で、インターネット上の情報に依存している人達は、検索エンジンを活用して必要な情報を集めます。断片的に収集された情報は、相互に全く無関係であり、コンテキストがありません。

 その結果、全面的にインターネット上の情報に依存している人達は、コンテキストを意識させられる機会が少なく、そのようなものが存在するという意識も希薄化します。

 コンテキストが希薄化すると言っても、コンテキストが消失するわけではありません。本人が持つ自分のコンテキストは存在しますが、それがコンテキストであると意識しなくなってしまいます。

 その結果、無意識的に持つ自分自身のコンテキストへの全面依存が起こり、コンテキストの使い分けという能力が退行します。(あるいは発展できません)

 それはさておき、もし「あえて」というニュアンスを理解するために、通常のコンテキストとは別に不適切であることを承知しているコンテキストがあることを把握する必要があるとするなら、これはまさにコンテキストの使い分けというスキルを要求される言葉であると言えます。

 仮に、これまでの話が正しいとし、かつ、コンテキストの使い分け能力が退行している人がいるとしれば、「あえて」のニュアンスを把握しにくい可能性が考えられます。

Facebook

トラックバック一覧

2004年07月17日「箱男」という概念で紐解くインターネットの匿名幻想From: 灼熱! オータム マガジン

『〈美少女〉の現代史――「萌え」とキャラクター』(ササキバラゴウ 講談社)という本を読んで、インターネット上で感じる問題について解釈する糸口が得られたように思えたので、ここに書いてみます。 念のため 続きを読む

このサイト内の関連コンテンツ リスト

2004年
03月
14日
長文の力作? コミュニケーションが重要であるという考えと、2ちゃんねる、オープンソース、Java、Linux、バザールモデルへの懸念に意外な関係?
3days 0 count
total 5011 count
2004年
04月
21日
川俣晶の縁側過去形 本の虫入手編
新現実 Vol.3 角川書店
3days 0 count
total 3358 count
2004年
04月
22日
川俣晶の縁側過去形 本の虫感想編
新現実 Vol.3 角川書店 (宮台真司×大塚英志対談の感想のみ)
3days 0 count
total 5534 count
2004年
05月
16日
川俣晶の縁側無意味監獄
インターネット知の欠陥というアイデアに関するメモ Version2
3days 0 count
total 6494 count
2004年
06月
02日
川俣晶の縁側無意味監獄
情報ではないもの、それを虚情報とでも呼んでみようか
3days 0 count
total 4277 count
2004年
07月
05日
川俣晶の縁側無意味監獄
インターネット上の知の問題は「異なる立場に立って考えることの欠如」であると言えるか?
3days 0 count
total 4805 count
2004年
07月
08日
川俣晶の縁側無意味監獄
「検索エンジン教えて君」への懸念
3days 0 count
total 9366 count
2004年
07月
17日
「箱男」という概念で紐解くインターネットの匿名幻想
3days 0 count
total 6248 count
2004年
10月
01日
川俣晶の縁側過去形 本の虫入手編
Comic新現実 vol.1―大塚英志プロデュース 角川書店
3days 0 count
total 3916 count
2005年
04月
01日
注意力欠如特質(Attention Deficit Trait:ADT)は、インターネットを使うと馬鹿になる(?)という「インターネット知の欠陥」の別名なのか!?
3days 0 count
total 11039 count
2006年
09月
06日
川俣晶の縁側無意味監獄
「無時間性という病理」の始まりと終わりに関するメモ
3days 0 count
total 6821 count
2006年
11月
16日
川俣晶の縁側無意味監獄
「敗北自己規定者」の切実なるニーズは、明らかに実行できない主張を流布させるか?
3days 0 count
total 4753 count
2006年
12月
07日
川俣晶の縁側無意味監獄
Java界が慢性的に人材不足である理由の考察・「敗北自己規定者」の概念を援用して
3days 0 count
total 6158 count
2007年
01月
11日
川俣晶の縁側無意味監獄
ビル・ゲイツが悪の帝王と見なされるメカニズムについての考察
3days 0 count
total 7777 count


新現実 v.3
紀伊國屋書店

このコンテンツを書いた川俣 晶へメッセージを送る

[メッセージ送信フォームを利用する]

メッセージ送信フォームを利用することで、川俣 晶に対してメッセージを送ることができます。

この機能は、100%確実に川俣 晶へメッセージを伝達するものではなく、また、確実に川俣 晶よりの返事を得られるものではないことにご注意ください。

このコンテンツへトラックバックするためのURL

http://mag.autumn.org/tb.aspx/20040608110208
サイトの表紙【辛口甘口雑記】の表紙【辛口甘口雑記】のコンテンツ全リスト 【辛口甘口雑記】の入手全リスト 【辛口甘口雑記】のRSS1.0形式の情報このサイトの全キーワードリスト 印刷用ページ

管理者: 川俣 晶連絡先

Powered by MagSite2 Version 0.36 (Alpha-Test) Copyright (c) 2004-2021 Pie Dey.Co.,Ltd.